インターネット版 No.74 全3ページ 1 | 2| 3

1 ・特集 九州やきもの散歩 @ ・・・ 14代今泉今右衛門さんを訪ねて @
2 ・特集 九州やきもの散歩 @ ・・・ 14代今泉今右衛門さんを訪ねて A
3 ・特集 九州やきもの散歩 @ ・・・ 14代今泉今右衛門さんを訪ねて B


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九州やきもの散歩 @ ・・・ 有田・伊万里篇
有田町赤絵町の中心部に、300年の歴史を誇る「今右衛門窯」があります
陳列場では13代の代表作も見られます
  14代 今泉今右衛門さんを訪ねて
              いまいずみ・いまえもん


ベテラン職人も多く働く「今右衛門窯」の工房。高度な職人技が歴代の当主を支えてきました。ムダのない、きびきびした動きが心地よく感じられます。
鍋島の様式美と
現代の色絵の融合
本特集と次号に渡って特集する「やきもの散歩」。岡本立世総長(陶房九炉土主宰、 九炉土千駄ヶ谷校総長、陶芸指導プロ養成塾塾長)が、九州の諸窯を視察旅行した際の同行記です! 

「佐賀県立有田窯業大学校」のロビーに展示されていた生徒の作品。中には商品化されるものもあるそうです。

●14代今泉今右衛門
「色絵薄墨墨はじき雪文額皿」
14代 今泉今右衛門
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Imaemon Imaizumi 14th

1962年に佐賀県有田町に生まれる。85年、武蔵野美術大学卒業。90年から父・13代今右衛門のもとで修業。96年に日本伝統工芸展入選。佐賀県美術展知事賞受賞。98年に日本伝統工芸展工芸会会長賞受賞。同会正会員となる。佐賀新聞文化賞奨励賞受賞。2002年、14代今右衛門を襲名。「本当に作りたいものを作ることと、鍋島を継承する意志を示す」襲名披露となる。同年、一水会陶芸部展会員優秀賞受賞。04年に日本伝統工芸展にて東京都知事賞受賞。

「人に豊かになってもらうことと、手仕事を続けていくこと」がふたつの大きな目標といいます。


一路、やきもの王国へ 

 九州はやきもの王国といってもいいほどの、歴史ある陶磁器の産地が全域に点在し、今も盛んに生産を続けています。
 岡本総長の産地視察のたびに同道した私たち取材スタッフ一行は、福岡空港に降り立ちました。 そしてまず、電車に乗り換えて向かった先は・・・伊万里です。
 MR(松浦鉄道)伊万里駅の2階には「伊万里・鍋島ギャラリー」があり、産地に来たことを実感しました。 ここには主に17〜18世紀を中心にした鍋島や古伊万里が70点あまり展示されていて、しばし時を忘れてじっくりと堪能しました。
 翌日はあいにくの雨でしたが、のんびりと鉄道に乗って旅路を楽しみます。 目指す有田までは、ほんの20分ほど。
 九州・佐賀県の最西部、長崎県と背を接する静かな山間いに、磁器の大産地・有田町があります。 駅から赤絵町の中心部に向かって車を5分ほど走らせると、江戸時代前期から御用赤絵屋として活躍してきた「今右衛門窯」の看板が見えてきました。
 超ご多忙だとお聞きしていたのに、14代今泉今右衛門さん自らが、私たちを出迎えて下さいました。 応接室での挨拶の後、ここのところとくに情熱を傾注して制作している「雪花墨はじき」について伺いました。
 「雪花・・・」は素地に撥水剤で模様を描き、刷毛で白化粧した後、低温焼成して撥水剤を飛ばします。 さらに白化粧の際を指で擦るなど、細かな作業の連続。
 岡本総長の専門的な質問に応えるように、高度な技法の説明に熱が入ります。
 時間の経つのも忘れ、作品を手にお話して下さる今右衛門さんからは、誠実な制作姿勢と意気込みが伝わってきます。 名のある窯の主でありながら、あくまでも謙虚な接し方に、とても好感が持てました。
14代今泉今右衛門「色絵墨色墨はじき草花文ぐい呑」14代が取り組む墨はじきの技法にプラチナを組み合わせ、独自性とゴージャス感を醸し出しています。

「墨はじき」とは、どんな技法ですか?   
        
A:
江戸時代から、 鍋島藩窯の製品に使われていた、白抜きの技法の一種です。
具体的には、素地に墨で模様を描き、その上から染付を塗って焼成します。すると、墨に含まれる膠分が撥水剤となり、染付を塗ってもはじくのです。
結果として、墨は焼かれてなくなり、白抜きの模様が表れます。            

模様の白く抜かれた
部分が 「墨はじき」



14代今泉今右衛門
「色絵薄墨墨はじき雪文皿」
 作品の展示室に招き入れられると、そこには清潔感ある、精緻で見事な色絵作品が並んでいました。 なかでも特筆すべきは、やはり「墨はじき」技法を使って作った一連の作品群です。
 墨はじきの技によって得られた模様のなかの白抜きは、直接筆で線描きするよりも、淡く柔らかで、控えめな印象の色絵作品に仕上がっているように感じられました。 また儚い白さと雪の結晶模様は、絶妙なハーモニーを奏でていると思いました。
 細部にまで神経を届かせ通わせた、実に丁寧な、精巧を極めた作品ばかりです。 300年の伝統を誇る鍋島の様式美に、当代独自の意匠を融合させた現代の色絵といえ、見事でした。


  
右上と中上歴代今右衛門の絵筆。
中下成形道具。
左上大皿の木型。
左下釉の調合などに用いる道具。
歴代の息吹を感じることのできる様々なもの。
(いずれも「今右衛門古陶磁美術館」にて)

陳列場では14代の新作を見ることができます。
今右衛門窯 /〒844-0006 佐賀県西松浦郡有田町赤絵町2-1-15  TEL.0955-42-3101


「歴代の今右衛門」には、どのような特徴がありますか?
A:
鍋島藩窯で焼かれた「色鍋島」は、特別に有田に運ばれ絵付をしました。 それを担当したのが、御用赤屋の今右衛門窯。 後に、廃藩によって途絶えた色鍋島の品格、技術、デザインなどを、10代〜12代今右衛門が再現し、復興を果たします。 豆彩風な、また有職文などに特徴があります。 さらにそれらを礎に、13代は近代作家として吹き墨、薄墨などの独創的な作品を作り、個人作家として活躍。 当代はさらに伝統を継承しつつ、「新鍋島」を創作しています。
●12代今泉今右衛門 「色絵有職文十角皿」 ●13代今泉今右衛門 「色絵薄墨露草文花瓶」

「鍋島」とは、どんなやきものですか?
A:
江戸時代中期から明治の廃藩まで、鍋島藩が有田周辺に専用窯を築き、朝廷や将軍家、諸藩への献上・贈答用として焼いた色絵磁器です。 徹底した技巧主義による、極めて精巧な技術によって作り上げられ、気高い品格が伴った孤高の美と絶賛されます。 色絵具は、染付の青に赤・黄・緑を合わせた4色に限定されます。 生産された総個数も、古伊万里や柿右衛門に較べて少なく、美術品市場での評価が極めて高いのも、当然かも知れません。
●「染付月兎文皿」17世紀後半
鍋島様式
●「色絵椿つなぎ文変形皿」17世紀後半
鍋島様式
(2点とも「今右衛門古陶磁美術館」蔵)

・・・2ページへ続く

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