インターネット版 No.44 全3ページ 1 | 2| 3|

1 ・第8回 「九炉土干支コンテスト」結果発表 <申> (1)
2 ・第8回 「九炉土干支コンテスト」結果発表 <申> (2)
3 ・第8回 「九炉土干支コンテスト」結果発表 <申> (3)

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応募作は高水準を維持
 第8回展を迎えた「干支コン」は、優れて洗練された作や、着想豊かで技術力のある秀作が、今回も全国各地から出品され、レベルの高さが窺えました。
 まず、一次審査を通過した全入選作が、例年通り東京・新宿の朝日生命ギャラリーに展示され、一般観覧者による人気投票が行われました。 有効投票は約1500票、多くの皆さんのご協力にお礼申し上げます。
 そして最終審査は、その人気投票を鑑みながら行われ、ここに詳報するような結果となりました。


「猿と、蟹と、丸(柿)と、三角(おむすび)の四角関係」
  (彫刻部門)

 


滝 亮さん
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神奈川県横浜市
講評「猿蟹合戦」に登場する各々のキャラクターが、とても秀逸に表現されている作品です。柿のヘタにいたるまでを細かく観察し、リアルに形作り、釉の発色によって特徴を見事に再現しました。技術がしっかりしていて表現力も豊かであった点で、高い総合評価を得ました。ただあまりに物語性を意識しすぎたため、主題である「猿」の印象がやや弱くなりました。それが遠因となり、グランプリにわずかに届かなかったのが悔やまれます。
(岡本立世総長 以下同)

1994年から独学で陶芸をはじめ、彩象美術展、陶芸アマコン大賞展などで受賞、入選を重ねる。 
「幼い頃、絵本で慣れ親しんだ猿蟹合戦をテーマに取り組みました。 とくに釉薬の色と、物語に登場する4つの要素の構成や配置に気を配りました。 また猿と蟹に関しては、顔の表情や手の動き、ハサミの開き具合などによって、気持ちが表現できるように努めました」

 



人気大賞(彫刻部門)
「見せず聞かせず言わせざる」

  
小澤康麿さん
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愛知県瀬戸市 
講評今回創設された賞です。 それほど一般の人気投票では、ひと際多くの票を集めた作品でした。 あえてほかのファクターを取り入れず、猿だけに集中して全体を構成したことで成功し、存在感や強さが増しました。 そういう意味でかなりの秀作ですが、釉などの材料の使い方で審査員を納得させることができていれば、グランプリにも手が届いた作品です。
1980年より陶器メーカーにデザイナーとして勤務し、95年に独立。 2000年、まねき猫大賞を受賞。 瀬戸市や東京などで個展。
「複雑に絡み合う今の世の中では、気づかないうちに『見せず、聞かせず、言わせざる』というような状況が起きているかも知れません。 形を強調するために釉はシンプルにし、かすかに緋色が出るように焼成に気を使いました」



形大賞
「モンキー・ブラザーズ(猿型小鉢)
冨田良介さん
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長崎県東彼杵郡 
講評主題となる干支そのものが、器としての用途をなす形部門の模範ともいえる秀作です。 把っ手は手と尻尾、胴体が器になり、猿の全身が鉢全体を構成しています。 器としての実用性があり、利用価値の高いデザインです。 手付鉢のなかに無理なくテーマが活かされています。 見事なアイディアと造形力の成果です。
1998年、長崎県窯業技術センターで研修。 02年に波佐見町内の陶芸体験施設の館長となる。 西部工芸展入選。
「イメージと実際の形とのバランスがとれず、四苦八苦しました。 腕が手長猿のような柔らかいカーブになることを心がけました。 やんちゃな弟と、それを見守る兄という感じです」
 
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彫刻大賞
「孫悟空」
  
佐古智子さん
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東京都北区 
講評観音様の掌のなかで暴れる悟空のヴィヴィッドな様子が、見る側にはっきりと伝わってくる優れた作品です。 また細部にわたって手を抜かず丁寧に作り込まれており、まさに大賞にふさわしい作です。 また釉の発色にも腐心の後が見え、焼成を重ねることによって得られた効果が、高ポイントに結びついた労作です。
1996年から九炉土信濃町校で陶芸を学ぶ。 98年からは陶芸通信講座も同時に受講する。 干支コン受賞、女流陶芸展出品。
「『西遊記』のワンシーン、孫悟空が観音様に挑む姿を表現しました。 悟空のやんちゃさや躍動感がでるように工夫しました。 彩色はすべて上絵付で、焼成を3回しました。 また観音様の手は重厚な感じの金に仕上がり、気に入っています」
 
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文字大賞
染付絵文字“さる”壺
  
八谷栄子さん
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佐賀県西松浦郡 
講評磁器の壺に染付で絵付を施し、その意匠のなかに「さる」というかな文字をさり気なく溶け込ませており、見事にデザイン構成されています。 作品全体がリズミカルで軽やかな印象にまとめられていて、多くの観覧者に好感が持たれました。 文字が装飾としても活かされた、大賞らしい優品です。
1986年より陶房九炉土にて作陶をはじめる。 98年、景徳鎮陶瓷学院(中国)へ留学。 01年に佐賀職業訓練校陶磁器科を修了。 佐賀、東京などで作品発表。
「磁器土に呉須で表現しました。 日本独自のかな文字のなかに、“さる”の動きを想像できるような作品にしたいと思いました。 とくに呉須の濃淡による表現に、腐心しました」

 
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絵付大賞
「山猿のいる風景
  
村松美紀さん
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神奈川県相模原市  
講評白い釉は降り積もる雪でしょうか。 岩のうえに佇みじっと寒さに耐える猿は、ベンガラで描かれています。 しかもその猿の表情には、野生に生きる獰猛さや逞しさまでもが活写されていて、凄味を感じます。 無駄な線も見あたらず、素朴な釉を使って深い世界観を巧みに表現し、絵付大賞にふさわしい佳品といえます。

 
1997年より九炉土千駄ヶ谷校で陶芸を学ぶ。 中級を経て上級コースへと進む。 99年より干支コンへ出品、各賞を受賞。
「毎年、年が明けると干支コン出品のためのデザインを考えはじめます。 ロクロは2年目で、歪な形が多く整えるのが大変です。 絵も思うように描けず、2度目でやっとこんな感じにまとまりました」





入賞に影響する人気投票
 本誌上に掲載された審査結果を見ても分かる通り、今年度はグランプリ該当作が、残念ながらありませんでした。 そのため、あと一歩でグランプリに届かなかった滝亮さん(横浜市)の作に、とくに「準グランプリ」(今年度の最高賞)として特別賞が授けられました。
 なぜこの作品がグランプリに至らなかったかは、岡本立世総長(審査委員長)の講評をぜひ熟読して下さい。 「なるほど!」と思うはず。 グランプリを獲るためには、作品の質を総合的に向上させなければならないことが、とても明瞭です。
 さらにもう一点、例年と異なることはといえば、これまでの大賞(部門大賞)とは別枠で、「人気大賞」というカテゴリーが設けられ、特別大賞として小澤康麿さん(瀬戸市)の作品に授賞されました。
 これはもちろん、小澤さんの作品が、一般人気投票で多くの得票を集めたこともありますが、存在感も他を圧していました。 「もうほんの少しだけ、審査員を肯かせるに足る説得力がこの作品にあれば、もちろんグランプリにも手が届いたでしょうね」とは、岡本総長のお話です。 捲土重来に期待しましょう。
 いずれにしても、このように特別な賞を急遽新設するほど、応募作全体のレベルは高水準に保たれていて、相対的には甲乙つけ難く拮抗していました。


★ 入賞作、2ページに続きます ★




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