2/3ページ

《 特集 板谷波山 ・・・P1の続き 》

 神々しき 板谷波山


■黎明期支えた偉大な作家 

 さてここからは、作品をゆっくり鑑賞していきましょう。
 一般に、板谷波山の作品の特徴は、東洋的な、とくに中国古陶磁の持つ厳格な造形様式を器形に採用し、他方、装飾は西洋風なアール・ヌーヴォーのスタイルを好んで用いていることです。 これら東西の陶磁器の様式を巧みに組み合わせ、まったく独自の陶芸美を創出した点が、とくに高く評されています。
 なかでも、葆光彩磁が完成する大正から昭和のはじめにかけての作品に、殊更に精緻華麗で荘厳な美が強く表れています。
 葆光彩磁が完成した記念すべき年、大正3(1914)年に作られたのが、「葆光彩磁鸚鵡唐草彫嵌模様花瓶」(前ページ一番下の写真)です。 この頃、連続して発表された大形の花瓶類には、この作のような鳥禽類と、更紗風な唐草模様が組み合わされています。 孔雀、鸚鵡、鳳凰類や、インド更紗などに取材した唐花文の研究が進められていたといいます。 これらの作品に描かれた世界は、作者のイメージした一種の理想郷でした。
 火の鳥のごとく、大胆に赤い鳳凰が描かれた「彩磁瑞花鳳凰文様花瓶」(前ページ上から2番目の写真)は、関東大震災があった大正12年の作。 昭和天皇のご成婚を祝して制作されたものです。
 日本の古典的な意匠にも深い関心を持っていた波山は、たとえば、法隆寺(飛鳥時代)の文物や、正倉院(奈良時代)の御物に見られる古代の模様の模写も精力的におこない、こうして作品に定着させていきました。
 そして、なんとも柔らかな光を放ち、高い精神性が感じられる「葆光彩磁花卉文花瓶」(前ページ1番上の写真)には、梅、木蓮、山茶花、椿、また水仙や百合などが、作品の四方に大輪を咲かせます。 しかも、前後に異種の花を咲かせる構図が、深い奥行きを感じさせます。 これらの花々を、薄絹のような葆光釉が包み込み、板谷波山にしか成し得なかった幽玄にして陶然たる美を創出しているのです。
一転して、モダンな雰囲気を漂わせる「彩磁美男蔓文水差」(このページ上の写真)は、華麗なアール・ヌーヴォー調のデザインです。 もともとの図案は花瓶でしたが、水指へと変更し描かれています。 こうしたアール・ヌーヴォーのデザイン感覚を、後に波山は、伝統的な茶道具の意匠として復活させ、現代的な茶道具を多く残しました。
◆「彩磁美男蔓(びなんかずら)文水差」 
 昭和20年代


◆明治時代に発表された図案は、花瓶に対する絵付を想定していましたが、実制作では、上の作品(水指)へと変更されました。
 このように、板谷波山の業績を顧みると、どの作品にも高い品格の備わった、完璧な美しさがあることがよくわかります。
 そして、わが国の近代陶芸の黎明期を支え、今日の陶芸大国・日本の発展の礎となった偉大な作家だった事実を、改めて痛感させられました。



板 谷 波 山 展 没後40年 素描集完結記念
                     ◆    
会期2月8日(土)〜4月13日(日)
会場出光美術館
住所東京都千代田区丸の内3-1-1  帝劇ビル9階
     ハローダイヤル 03-5777-8600



 出光美術館が永年に渡って収集してきた板谷波山作品は、すでに200点を超え、国内屈指の内容を誇っています。 また同時に、作品制作の元となった素描も、約2200点が収蔵されています。
 波山が没して40年目にあたる本年、併せて同美術館では「板谷波山素描集」全6巻の刊行を完結させました。
 それらを機に開催されている本展では、陶芸作品と素描を対比し、板谷作品が成立していくプロセスや、背景を知る展示構成になっていて、必見です。
 崇高で格調高い作品とじっくり対話しながら、一方で、その出自に思いを巡らせることができる、出色の展覧会です。 

帝劇ビル内にある出光美術館


波山の意匠に焦点をあてて編集された
カタログ。




1ページ | 2ページ | 3ページ
tougeizanmai.com / バックナンバー