「あなたはこの筥のなかに、なにを入れるのですか?」と問われて、「夢を!」と答えた造形作家がいました。
蓋をすることによって、内部に閉ざされた空間を保つ「蓋物」は、どこかロマンチックで、不思議な器です。 ところが、いざ蓋物を作るとなると、急に戸惑い、思案してしまう方も多いとか。 それでまず、どんな種類の蓋物があるのか、実際に九炉土展の会場に行って観察してみましょう。 今年度の本展の共通テーマは、「蓋物」です。
すると会場には、想像以上の種類の蓋物作品が、ズラリと勢揃いしていて、驚きました。 器種別にざっと挙げると、ティーポット、水指、飯碗、急須、香合、陶筥、菓子鉢、土鍋、向付、飾り壺、漬け物鉢、照明器具・・・などなど実に多様です。
一般的に蓋物というと、どうしても種類が固定化されてしまい、しかも技術的に難しいことから、あまりテーマに選ばれないような気がしていました。 ところが、九炉土展への出品作を見ていて、それは単なる思い込みとわかりました。 作者の皆さんが本当に自由に、そして、楽し気に作陶する様子が、作品から伝わってくるからです。
しかも発想、技法、造形、装飾と、なにをとっても画一的なものはありません。 また個々の作品の質は、いずれも高レベルに保たれていました。
堂々たる陶筥の大作を出品していた作者は、こういう蓋物作品になると、正直にいって、制作途中で技術的な問題に直面することもある、といいます。
「でも、なにを作りたいかという目的がはっきりしていますし、先生からは的確なアドバイスが頂けて、安心なんです」と、作品を前に、大満足といった様子。
別の出品者に尋ねても「想像以上に蓋物作りは楽しいですよ。 とにかく、作り甲斐があるテーマですネ(笑)」といいます。
それにしても、一見難しそうな蓋物作りが、なぜ、こんなにも楽しいのでしょうか? |