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 (21)  急須汲み出し
クリーム色が柔らかい、繊細な茶器セットを見ていたら、旅の思い出がよみがえってきました・・・。
それは、風土に根ざした器の魅力を教えてくれた、貴重な体験でもありました。 

 九州のとある町でのことです。 年期の入った器でふと茶を供され、その器の控えめな美しさに見とれたことがあります。 場所は、お茶どころとして知られた鹿児島県・知覧(ちらん)町。 器は薩摩焼の煎茶器でした。
 それは、ちょうど薩摩貫入釉が上品な写真の作と同様に、クリーム色をした小さな碗でした。 きっとこの作品も、長く使ううちに貫入に茶渋がしみ込み、古色がかってきます。 それでも「貫入ってキレイなものだな」と感じることができるはずです。
 ところで、薩摩焼には白薩摩と黒薩摩があります。 なかでも白薩摩は、その昔、藩主の専用品として一般には禁じられたもの。

作品:高橋照治
急須    高6.5 径15.5×10.0cm
汲み出し 高5.0 径8.5cm
 「透かし彫や金彩の入った華麗なやきものばかり」という思い込みがありました。 だから、シンプルな茶器との出合いは新鮮で、はじめて本当の白薩摩を見たように思ったものです。
 日本の各地には、こうした風土に根ざした茶器が生きています。 そこには、焼き継がれる器の底力が、きっとあるのですね。






「食器の買い方選び方」
秋岡芳夫 著
 

 器をテーマにした本やムックは多々ありますが、まさに、“食器選びのバイブル” として読みつがれているのが本書です。
 著者の秋岡氏は、工業デザイナーの草分け的存在。 一方で伝統工芸の育成にも力を注ぎました。 本書では単にモノを推奨するだけでなく、「いい器とは何なのか」を、分かりやすく、論理的に解き明かしてくれます。
 ふだん何気なく使っている飯碗や湯呑みは、どうしてあの形と大きさなの・・・? そんな、当たり前のようでいて意外な発見が隠された本書は、食器を買う人にも、また作る人にも、「基準」が手に入る一冊です。

(問)新潮社
TEL03-3266-5111
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