インターネット版 No.20  全3ページ 1 | 2| 3

1 ・特集 やきもの散歩 <4> ・・・ 「近代の工芸」展と目白台・目白駅周辺 (1)
2 ・特集 やきもの散歩 <4> ・・・ 「近代の工芸」展と目白台・目白駅周辺 (2)
3 ・とっておき WALKING POINTS (5) ・・・ 赤膚(あかはだ)
・目にも旨い!男の簡単Cooking (27) ・・・ ほうれん草と人参の白和え
・BOOK ・・・ 「備前焼の魅力研究」

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やきもの散歩<4>  
河井寛次郎
「兎糸文火焔青盂」 1921年
永青文庫蔵
近代工芸展と
    目白台
目白周辺
  
JR山手線の目白駅界隈は、新宿区と豊島区、少し東側で文京区と境を接した閑静な文教地区です。また昨今、とくに目白通り沿いに個性的な器ショップやギャラリーが集まっていて、衆目を集めています。
今号では、器を探しながら、永青文庫を中心にした目白台、目白駅周辺を散策します。 

胸突坂下の神田川。
東京都内とは思えない風情です。  


河井寛次郎
「双魚文桃果釉壺」1921年
永青文庫蔵


森のなかの美術館

 JR山手線の目白駅は、山手線の各駅と比較して、全乗降客に占める女性の割合が高い駅だといいます。 それもそのはず、目白駅周辺は日本女子大や川村学園などの女子大のメッカで、それらに学習院も加わって文教地区を形成しています。
 また背後には高級住宅街が控えていることも関係してか、とくに最近では、器専門のギャラリーやショップ、民芸・古美術店の進出が著しく、やきものファンにとっては見所の多い、注目エリアになっています。
 さて改札を出て、すぐ目の前を東西に走っているのが目白通りです。 今日は、駅周辺のギャラリー巡りは後回しにして、最初に「永青文庫」を目指すことにします。 駅前から都営バスに乗って、目白台3丁目までまずさっと行ってしまい、帰りは徒歩で目白駅に戻るというプランです。 もちろん天気に恵まれたすがすがしい初夏の一日なら、絶好の散歩コースですから、往復を歩いてもいいでしょう。
 バスを降りたら、鬱蒼とした椿山荘の木々を横に見ながら、胸突坂につながる道をたどって進みます。 周囲はとても都心と感じられないほどの、緑の濃さと静けさ。 思わず深呼吸さえしたくなります。 そしてほどなく、森のなかの美術館といった趣の「永青文庫」が見えてきました。
永青文庫
●文京区目白台1-1-1
●TEL.03-3941-0850
●目白台3丁目バス停より、徒歩3分
●南北朝時代にはじまって700余年の歴史を有する肥後(熊本)54万石の名大名・細川家。 永青文庫は同家に伝わる文化財や美術工芸品を収蔵する世界的なコレクションとして著名で、国宝や重要文化財など多くを含んでいます。
 同文庫は江戸時代から戦後にかけてあった細川家の、広大な屋敷跡の一角に建っています。 細川家は室町幕府三管領のひとつとして誉れ高い家柄で、初代藤孝から17代護貞氏、さらに元総理の護煕氏につらなる肥後・熊本の名家です。 また護貞氏は長く日本工芸会の会長も務め、工芸に深い関心を寄せているのはよく知られています。 同文庫はこの細川家に伝来する美術・工芸品などを管理保存し、一般に公開する美術館です。
 永青文庫では毎年四会期に分けて、美術工芸品を中心とした展示をしていて、現在は「近代の工芸」と題してコレクションの一部が公開されています。 近代の錚々たる工芸作家による漆芸や金工、彫刻などの秀作が並んでいます。 とくに陶芸では諏訪蘇山(1852〜1922)や宮川香山(1842〜1916)ら、なかでも河井寛次郎(1890〜1966)の京都・憧溪窯時代の一連の作は、迫力があって圧巻です。 まさに近代の陶芸家としての萌芽とその創作性が、はっきりと伝わってくる作品群だと思いました。

「近代の工芸」展
3月19日〜6月29日
(日・月曜日、祝日〈土曜を除く〉は休館)
 細川家十六代護立(1883〜1970)氏は、日本美術院や白樺派など新たな芸術活動を積極的に援助し、さらに河井寛次郎、富本憲吉、漆芸家・高野松山らの個人作家にも経済的支援を行っていました。 また17代当主・護貞氏は日本工芸会会長を長く務める一方、自らも陶磁器、木竹の制作をするなどし、工芸に深い関心を寄せています。
 本展ではとくに、この細川護立、護貞両氏が蒐集した河井寛次郎、宮川香山、諏訪蘇山、永楽善五郎、高野松山らを中心とした近代工芸家たちの陶磁器、漆芸、金工などの優品が展示されています。 なかでも特筆すべきは、河井寛次郎の初期の作品が充実していて、じっくりと鑑賞できることでしょう。
 当時の寛次郎はといえば、それまでの釉薬研究の成果を、中国古陶磁風の多彩な作品にまとめはじめて、華々しいデビューを飾った頃。 民芸に傾倒していく前夜の、近代作家としての成立の礎となった興味深い作品群といえます。


河井寛次郎
「三彩車馭文煙草筒」1922年
永青文庫蔵

 展覧会を見終えて外に出ると、木漏れ日を渡る風が爽快に感じられました。胸突坂の急な坂を神田川に向かって下ると、松尾芭蕉が一時住んでいたという「関口芭蕉庵」がありますから、余裕があれば寄ってみましょう。
 ここら辺りで踵を返して目白通りに戻り、目白駅方面へと歩きだすとじきに「ギャラリーKAI」です。 店内には、大山智子作の新作の色絵磁器がたくさん並んでいて、いつもながら絵も形も楽し気な器で、見ているだけでウキウキします。

関口芭蕉庵

●文京区関口2-11-3
●TEL.03-3941-1145
●目白台3丁目バス停より徒歩5分
●永青文庫前の胸突坂を下った左側。 ここは伊賀出身の俳人・松尾芭蕉が、3年間ほど住まいとしていたといわれるところです。 趣豊かな庭園を思索にふけりながら散策できます。


ギャラリーKAI
●文京区目白台1-24-9
●TEL.03-3944-8515
●目白台3丁目バス停より徒歩1分
●やきものを中心に、漆やガラス器なども並べられています。 とくに出色なのは、大山智子の色絵磁器や美濃(多治見市)の蔵珍窯の器などが充実していて、見逃せないプチ・ギャラリーです。 

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