インターネット版 No.13  全3ページ 1 | 2| 3

1 ・真木ことみの作陶奮闘記 (1)
2 ・真木ことみの作陶奮闘記 (2)
3 ・使ってみたい!!釉薬 30 ・・・ 緋襷釉+4号トルコ青釉+黄伊羅保釉

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 売れっ子の人気演歌歌手・真木ことみさんは、雑誌の取材で器作りに挑戦したことがきっかけになって、いつの間にかどっぷりと陶芸の魅力にハマってしまいました。 以来、忙しい合間にできるわずかなオフタイムを見つけては、せっせと九炉土千駄ヶ谷校にやってきて、作品作りに励んでいます。
 
 そこで今回は、作陶が楽しくて仕方ないということみさんの制作の様子を、徹底的にレポートしてみようと思います。 さて、どんなふうに作品ができあがるのでしょうか? 教室におじゃましてみることにします。


真木ことみ プロフィール

1972年に神奈川県に生まれる。 血液型はA型。
90年、日本テレビ「女ののど自慢 全国高校生大会」にてA賞合格。
93年に『橋/命かざって』でメジャーデビュー。
同年、第26回新宿音楽祭にて敢闘賞受賞。 文化庁芸術祭公演に出演。
95年より初のソロ全国コンサート(全国20カ所)をスタートさせる。
96年には日本赤十字社銀色有功章を受賞。
98年、「美空ひばり歌謡祭」(日本武道館)に出演。
同年からTBSラジオ「歌うヘッドライト」(水曜日 AM4時〜AM5時)にレギュラー出演中。 また栃木放送(ラジオ)「真木ことみの演歌三昧」(月曜日 PM9時10分〜PM9時30分)でもレギュラー・パーソナリティーを務めている。

モットーは「明るく、元気に」。 


◎いつも身近に感じていた“土”
 真木ことみさんは、今日もニコニコと笑みを浮かべながら、九炉土千駄ヶ谷校の第3教室にあらわれました。 それだけでなんだか、急に教室が華やぐような気がします。 早速、持参したエプロンを着け、マネージャーさんに髪を束ねるのを手伝ってもらったりしながら、徐々に創作へのテンションが盛り上がってくるようです。
 そして、「さ〜ぁ、ヨシ、今日も作るゾ!!」と、気合いをひとつ入れました。
 そういえば、先日たまたま観ていたテレビ(「にっぽんの歌」NHK−BS)に出演していたことみさんは、和服姿がビシッと決まっていて、驚くほど張りのある個性的な声で熱唱していました。 ステージでの振る舞いはとても落ち着いていて、プロの歌手としての堂々たる存在感がありました。 でも今、土を前にして腕まくりし、気合いを入れていることみさんの印象は、ステージのうえとはかなり違っていて、どうやらリラックス・モードに入っているようです。 実は本当は、とても無邪気で気さくな人柄で、周囲にいる人は、ついつい親しみを感じてしまいます。 まったく不思議な魅力の持ち主なんです。

 ところで、なぜ陶芸かといえば、「ずーっと以前から興味があって、いつかチャンスがあればやってみたい」と、思っていたのだそうです。 「私がデビューする前のことです。母が福祉施設に勤めていたものですから、そこで園生らといっしょになって母も手捻りでカップや皿のようなものを作っていて、何とはなしにそういうものを普段から見ていました。 それは、きれいというよりもね、ボコボコっとしていて暖かい感じのするものが多かったです。 それに私の故郷は山の中ですし、近くでやきものをやっている人もいて、土はいつもとっても身近なものだったんですヨ」

 そんな陶芸の原風景を持つことみさんですが、歌手になってからは仕事も忙しくなる一方で、実際には、なかなか土に触れる機会に恵まれませんでした。
 「・・・ですけど、和食の店で食事をする時とか、器の色や形の美しさに見とれて、いいなぁと思うことはよくありました。 それに器屋を見るのも好きですし、仕事先の近くで骨董屋さんを覗いていて、鯛の絵付のある大皿を見つけたこともあるくらいです」

 そしてついにある日、雑誌の取材で九炉土千駄ヶ谷校を訪れ、土に触れ、器を作った体験がきっかけとなって、一気に陶芸にのめり込んでしまったのです。 


実は、ことみさんは土練りが少し苦手だとか。 でもここで、土のなかにある空気をキチンと抜いておかなければなりません。
「はい先生、がんばりま〜す」 
確か、土練りは苦手のはず…。 ところが、だんだん手のなかで備前土がまとまってきましたよ。 これには、石井先生(右)もビックリ。
なかなかどうして、様になっていました。
 


◎大賑わいの教室 
 今回ことみさんが選んだ土は、備前土です。 この土を用いて、備前焼の伝統的な、渋くて暖かみのある緋襷(ひだすき、本サイト「用語大事典」参照)作品を目指し、いよいよ作品作りがはじまりました。
 ところがいきなり・・・、「私、これが苦手なんですよねぇ〜」と、土の置かれた作業台の前でいきなり照れ笑いすることみさん。 ロクロに向かう前に、まず土練りという、地味な、でも大切な作業が待っているのです。
 とはいっても、「ヨイショ、ヨイショ」といいながら、手のなかでは見る見る土が練り上がり、それはそれなりにまとまっていくのには驚きます。 隣で見ていた講師の石井千景先生も、「あっ、そうそう。 それでいいんですよ。 ずいぶん上手くなりましたネ」と感心するほどです。
 もちろん土練りの間も、ことみさんからはずっとこぼれるような笑顔がたえません。 土に触れていることが、もう楽しくて楽しくてたまらない様子です。 


いよいよお待ちかねのロクロ挽きです。 「うわ〜、土って気持ちいいんですよぉ」といいながら、たちまち夢中になることみさん。
「ほらほら、見て見て!!」。 土と戯れ、まるで童心に返ったようでした。
 


 そして次に、ロクロ台に土がドンと据えつけられて、いよいよ準備が整いました。 九炉土オリジナルの電動ロクロ「Z-991」のメイン・スイッチがオンになり、変速ペダルを踏む足に、少しずつ力が込められていきます。 同時に、心地よく静かなモーター音がしはじめ、軽やかにターンテーブルが回転をはじめました。 「うわー、土ってホント、気持ちいいですよ!」
 まず中心を出しながら、また土殺しを繰り返す間も、ことみさんからは歓声が上がりっぱなしです。 「滑らかさや柔らかさがあって、水に濡れている土の感じが、私、すっごく好きなんです。 この感じが、たまらないんですよね」
 しばし至福の時が、ことみさんに流れていきます。
 そして最初は、ぐい呑をササッと挽いて、まずは腕慣らしといった感じです。 弓で口部の土を少しカットして整え、なめし皮を使って丁寧に仕上げます。 そして最後に、作品を土から切り離します。 ・・・ロクロの回転をやや遅くして、狙い通りの位置にしっぴき(糸)を入れ、糸が交差した瞬間に、さっと引いて・・・?? あれれっ? 「ああっ、切れないよ〜ぉ。 先生、助けてえ下さ〜い(笑)」
 つい慎重になりすぎて、糸を引くタイミングがほんの少しだけズレてしまったようです。 「ぜんぜん大丈夫ですよ」と、石井先生。
 いったんロクロの回転を止めて、先生がじっくりと技術指導。 それからもう1度挑戦したら、今度はスッパリと切り離しに成功です。 こうして1点目のぐい呑があっという間に完成しました。
 「うわぁ。 自分でいうのもなんなんですが、このぐい呑、カッコイイでしょう?(笑)」 
 そういうことみさんの “間” がなんとも面白くって、周りで見ていた一堂は、大爆笑。 でも確かに、作品はなかなかの出来映えに見えます。 これでお酒を飲んだら、さぞかし美味いことでしょう。 そんなこんなで、今日の第3教室は大賑わいです。 


九炉土が開発したオリジナル電動ロクロ「Z-991」が静かに回り続け、ロクロに向かっている間は、ことみさんから笑顔と歓声が、決してたえることがありませんでした。
「なめし皮って、確かこう持つんでしたっけ?」。 「まっ、これでいっか(笑)」。 細かなことに頓着しないのが、ことみさんの作陶の特徴です。


「最初、ぐい呑にしようと思ったけど、やっぱり湯呑みを作ろうかなぁ?」。 ただ今しばしの思案中。
今度は、鉢。 「うわぁー、伸びる、伸びる」。 ロクロに没頭していて、周囲がまったく見えなくなった瞬間(?)です。
「ネ、私もけっこうやるでしょ?」と、マネージャーさんにいいながら…。
 



◎自分でいられるひと時 
 ことみさんの手はほとんどずっと動き続け、次に小鉢、湯呑み、そして休みなしにまたぐい呑、皿と、ついに 9点もの作品が一気に挽きあがりました。 ロクロ目も鮮やかで、どれも屈託がなく、勢いのいい作品ばかりです。
 「土に触れていること自体で私はリラックスできて、自分でいられるというか・・・。 土に触れながらロクロを廻している時は、集中していて無になれて、すっごく真剣ですから。 そういう意味でも、もう陶芸は止められませんネ(笑)」
 プロの演歌歌手としての緊張と、陶芸でのリラックス。 ことみさんは、その間を行きつ戻りつしているかのようです。 九炉土でロクロに向かっている時は、本来の自分に還り、ほっと癒されている最高のひと時なのです。   


「ほら、きれいに切れたヨ(笑)」。 弓の扱いも、なかなか巧みでした。
「ざっとこんなもんです。 ハイ!」。 思う存分ロクロを堪能して、かなりご満悦のことみさん。


ちょっぴり陶芸家気分のことみさん。 いい雰囲気の湯呑みが挽けました。
そしていよいよ、仕上げにサインを入れます。 いつもの色紙とは勝手が違いますから、慎重に、慎重に…。


「石井先生、今日は大変お世話に…、お騒がせしました(笑)」

 最後に、ひとつずつ完成作をチェックしながら、サインを入れていきます。
 今日の作業をすべて終えて大満足したところで、ことみさんに今年の陶芸と仕事の、それぞれの目標を聞いてみました。
 「これまでに、徳利を先生に手伝っていただきながら3回くらい作りましたけど、かなり難しいですね。 だから今年は、ひとりで徳利を挽けるようになりたいです。 それから仕事では、今年はデビュー10周年になりますから、ヒット曲を出し、歌い手として皆さんの心に浸みるような歌を唄い、ひとまわり大きく成長したいと思います」
 目を輝かせ、迷いなくそう話す真木ことみさんを見ていて、きっとふたつとも、その目標はかなうような気がしました。



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