インターネット版 No.98 全2ページ 1 | 2
1 ・<repo> 陶房九炉土 作陶展in銀座 第30回
2 ・<repo> 古陶の譜 中世のやきもの ―六古窯とその周辺― ・・・ 愛知県陶磁資料館

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 陶房九炉土による初の展覧会は1981年に開かれました。今からおよそ30年も前のことです。以来、様々なテーマのもと陶房九炉土の“今”を伝えるレベルの高い展覧会を開催し続け、今
年で記念すべき第30回目を迎えました。昨年、長く親しんだ新宿から銀座に会場を移し、新たな幕開けとなった九炉土展は、今年もたくさんの個性派揃いの会員たちが、節目の年に相応しいお祝いムード漂う華やかな作品を発表しました。会員それぞれの気持ちが込められた、タイルで作られた“30”の文字からはみんなの嬉しい声が聞こえてきそうです。
第1回陶房九炉土展覧会 案内ハガキ

《絆のWa》 岡本 立世
左:《最後の風景》 
下:《つながる円》 

長谷川 園恵
《花器》
《ぐるぐるパスタ皿》

松野 美紀






上:《雪見サーバー》 《雪見猪口》
左:《洲のある浜辺》

中川 篤史
 九炉土の発信する陶芸の最大の特徴は「芸術性の高さ」です。花器や皿といった伝統的な造形でありながら、ここに展示されている作品たちは一筋縄ではいかない想像性豊かなものばかり。他では見られない独創的なデザインを楽しむことができるのが九炉土展の魅力の一つとなっています。
 そこで「デザイン」というキーワードは九炉土を語る上で欠かせない言葉ではないでしょうか。
 工芸品というカテゴリーに入れられ、芸術作品とは一線を引かれてきた陶芸の概念も変化を遂げ、巷にもようやくデザイン性の高い器や「作家もの」、「一点もの」といういわゆるリミテッド・エディション(数量限定)の製品が浸透してきましたが、九炉土は発足当時から「デザイン」を意識した作品作りを心がけてきました。展覧会場で作品たちを前にしていると、その変わらない精神が個々の作品に見事に反映され、30年にもおよぶ展覧会の歴史を作り上げたのだと肌で感じることができます。

 陶房九炉土展覧会に出品される作品は「プロ意識」の高さがうかがえるものばかりです。趣味の陶芸の発表会といった様子ではなく、会場の雰囲気には温かいながらもどこか凛としたものが感じられます。その源はやはり一人一人が陶芸家としての高い意識と志を持っているからではないでしょうか。

 多種多彩な展示品からは自分の作りたいものを作りたいように作る、伸び伸びとした自由な教室風景が目に浮かびますが、その完成度の高さには、実力を付けるために努力を惜しまないという厳しさを感じることができます。イッチン、象嵌という作陶技術の前に「描く」センスが必要となるテーマでも作り上げてしまう、レベルの高さは並ではありません。「プロの陶芸家として恥ずかしくないものを作る」という精神がクオリティの高い作品づくりにつながっているのはいうまでもありません。一人一人の高い意識が、優れた作品を生み、優れた展覧会を作り上げる、九炉土展にはこのような良い流れが生まれているのだなと実感しました。
 昨年、長く親しんだ新宿から銀座に会場を移し初めて開催された展覧会のテーマは“クラシック・モダン”でした。銀座はまさにこの言葉を体現したような街です。大型デパートやショップのオープンラッシュが続き、急速に進化を遂げる一方で、多くの老舗が軒を連ね、今も暖簾を守り続けています。
 今回は、展覧会帰りにぷらりと立ち寄った老舗、中でも百年以上続く“大老舗”を中央通りを中心に8店ご紹介いたします。

 展覧会場となった銀座2丁目の藤屋画廊から京橋方向へ数分、鞄専門店『銀座タニザワ』(写真3)があります。日本で初めて“鞄”の文字を使ったと伝えられている歴史ある名店。ブリーフケースに着想を得た“ダレスバッグ”が代表的。熟練した職人が手掛けるタニザワの鞄、憧れの逸品です。
 銀座4丁目の交差点近くには二つの老舗が並んでいます。全国的にも有名なあんぱんの『木村屋』(写真1)と日本一高い土地でおなじみの『山野楽器』(写真4)。山野楽器は都内各所に店舗を持ち、今では楽器屋さんというよりはCDショップのイメージも強いですが、創業は1892年と110年余り続く大老舗です。
 1907年、この年に創業したのがオーダーメードスーツの『銀座山形屋』(写真7)と靴専門店『銀座ヨシノヤ』(写真8)です。
 『銀座山形屋』はスーツを愛用していたというビートルズのポール・マッカートニーが仕立てを依頼したという逸話の残る店。海外の著名人が認めたテーラー技術によって、今も“本物”を知るファンによって支持され続けています。
 中央通りから一本入った裏通り、煉瓦の壁がレトロなお店は昔ながらの洋食屋『煉瓦亭』(写真5)です。“カツレツ”発祥の店といわれ、フライは絶品。レストランの枠を超えて観光名所として一度は立ち寄ってみたい老舗です。
 “毛糸の「伊勢與」”と呼ばれ、まだ日本に編み物がなかった時代、いち早く毛糸を売り出したのが現在、上品な子供服で人気の『サエグサ』(写真2)です。毛糸と合わせて輸入したビロードも人気を博し、人力車の客が膝にかけた赤い膝掛けも「伊勢與」 の商品が使われたといいます。
 最後にご紹介するのが煙草・喫煙具の専門店『菊水』(写真6)。全国から訪れる人が絶えず、パイプ愛好家の聖地ともいえる1903年創業の名店です。
 銀座の老舗を巡って感じたことは、どの店も“新しさ”があるということ。百年以上続く大老舗ばかりなのに、扱う商品にはどれも新鮮さがあるのです。いつの時代も今一番良いものを提供しようとする精神が1世紀以上に渡って支持され続けた理由ではないでしょうか。時代に合わせて柔軟に変化しながらも、“本物”だけを作り続ける変わることのない信念は“九炉土”の精神にも通じるものがあります。8つの老舗と九炉土展を通して、“支持され続けるために必要なことは何か”をわずかですが垣間見ることができました。
1.展覧会場前 中央通り★銀座2丁目
2−3.カルティエ★銀座2丁目
4.中央通り沿いのツリー★銀座4丁目
5−6.ミキモト★銀座4丁目
7−8.銀座4丁目交差点



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