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「綺麗さびの茶」
遠州の美と心
 

 小学館(定価 2,730円 税込) 



 本誌での好評連載「茶とやきもの」において、毎号、示唆に富んだお話をご披露いただいている遠州流茶道の安藤宗良先生が尽力されて編集し、先頃、一冊にまとめられたのが本書です。
 周知の通り、遠州流の茶道とは、江戸時代初期の大名、小堀遠州を祖として広まった武家茶道の代表的な流儀です。

 本書では、当流の小堀宗慶宗匠と小堀宗実家元との親子対談という形式をとりながら、話題が縦横に展開していきます。 とはいっても、茶の湯の作法を教える、いわゆる手引き書とは趣を異にし、茶の湯の精神、とりわけ遠州の茶の真髄といえる「綺麗さび」の基本とはなにかを随所で平易に解説し、しかも、様々なエピソードなどを交えながら手ほどきしてくれます。 ですから、たとえ実生活では茶の湯とは縁がないという読者でも、関心を持ったまま、たちまち一冊を読み継ぐことができます。
 たとえば、10歳の遠州と利休との出会いのエピソードを紹介したうえで、遠州が利休の茶に対して、なにか特別な思いを持ったのではと、家元が読み解いていきます。 ここに遠州の茶の誕生の芽生えがあったのではないか…と。 また別の章では、「茶壺におわれてとっぴんしゃん。 ぬけたらどんどこしょ」という戯れ歌は、将軍に茶を届けるための「お茶壺道中」の通る様子を謡ったものであったと宗匠が語り、興趣はつきません。
 しかし遠州は、村田珠光にはじまり武野紹鴎、利休、そして織部へと伝わった茶の湯を受け継ぐのみにとどまらず、建築、作庭にも稀な手腕を発揮し、書画や和歌、陶器の優れた鑑定家でもありました。 それらを総合して創造した茶道大系「綺麗さび」を知ることは、すなわち日本文化を辿ることに重なります。

 つまり本書は日本の総合文化論であり、同時に、優れた日本人論となって心に響く好著です。





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