2/3ページ



時代を忘れないデザイン 

 「一般的にいって、日本では 『皿』 というと、皆さん洋皿を想像することが多いのではないでしょうか?」 と、森正洋氏はいいます。
 ところが日本には、箸を使って食べる特殊性があります。 となると、浅い皿では食べにくく、しかし鉢のように深くはない皿がほしくなるはず。 皿をデザインする時には、そのようにいつも使い勝手のいい深さを見極める点で、苦労するそうです。
「ファンシーカップ」
いずれも高11.4p 1969年
作品撮影:大堀一彦/中嶋勇

手で持つ形を、カップのデザインそのものに活かして作られています。それによってこのような美しくて新しい、独特な器形のカップが誕生しました。もちろん、持ちやすさという実用性も、充分に考慮されて作られています。 
 なかには、日本より先に外国で評判となって、やがて国内で知られるようになったデザイン作品もあります。
 「金属でもプラスチックでもないやきもののデザインだからこそ、外国と比較しても、日本の独自のものがでてきやすくなると思いますよ」 たとえば、こんな例もあります。 「A型パーティトレイ」という組皿が、海外で有名になりました。 三角形と細長い台形の六枚の皿が組合わさって、ひとつの方形となる組みものです。
 ところが、やがて日本でも評判をとりはじめると、あるご婦人から、「A型パーティトレイ」は食器棚に入りにくい、といわれたそうです。
 そこで工夫・改良を重ねた末に、角を基調としたデザインから離れて、円を形の根本として丸みを活かし、「O型パーティトレイ」として発表しました。 もちろん、日本的収納をも考慮したデザインであることはいうまでもありません。
 また、ロングセラーとなっている「灰皿」もあります。 扇風機の風が当たっても灰が飛びにくく、しかも、吸いかけの煙草が外に落ちないように安全設計になっています。 この灰皿が30年を越えてなおヒットを続けるわけは、バランスのとれた飽きのこないシンプルなデザインと、徹底的に追求された機能性のたまものに違いありません。
 「なにも有名な灰皿ということではありませんが、ロングランです。 作者としては、とても嬉しいことですね」と森氏は、相好を崩しながらいいます。
同展会場には、若い観客も多く目につきます。
 そして「平型めしわん」の制作エピソードは、こんなふうでした。
 飯碗を作る時に想定する日本人の手の標準サイズは、口径が13センチなのだそうです。
 「ところが、標準的なサイズで作ってみると、あまりに決まりすぎなんですよ。 そこでデコレーションが許される範囲内ということで、2センチ伸ばして15センチと決め、しかも、高さは5センチほどの、浅く平らなものにしました」
 これまで慣れ親しんだ飯碗からすると、ほんのちょっぴり意外性のあるサイズといい、浅い形状といい、見る側には鮮烈に感じられます。 さらに、少しだけ伝統的でありながら、けれどポップな装飾性が、とても現代的です。 1992年の発表以来、次第にバリエーションも豊富になって、今では300種類を越えるほどといいます。
 日本の、先人たちの残した器の形を視野に入れながらも、しかし、現代の私たちの生活に則した器のデザインを決して忘れません。 そんな森正洋氏の多様で創造的な仕事は、今日の日本の陶芸の一翼を確かに担っているのだと感じられました。



「森 正洋−陶磁器デザインの革新−

東京国立近代美術館 2階 ギャラリー4
6月18日(火)〜8月4日(日)(休館日=月曜日)
 戦後早くから、近代的な陶磁器のプロダクト・デザインという分野を開拓し、確立したのが森正洋氏です。
 おもに磁器を素材とした一連のデザイン作品は、生産性を考慮しながらも、機能的でムダがなく、清潔感があって美しく、しかも、そこはかとないユーモアさえ感じられるものも多くあって、特徴的です。
 また、日本の陶芸の伝統を巧みにデザインに採り入れたものがある一方で、時代とともに変化し続ける日本人の食生活にも機敏に反応し、和洋折衷の食器や自由気ままに使えそうな器まで、多種多様です。

 本展では、グッドデザインの象徴といわれ、森氏の出世作ともなった「G型しょうゆさし」はじめ、様々な工夫が凝らされた調味料入れ、機能性とデザインが見事に融合した茶器、コーヒーカップの数々、和食、洋食の器セットなど、森正洋氏の主要な器デザインばかり、およそ90点(組)が展示されている出色の展覧会です。
 それから、帰り際には、美術館1階にあるミュージアム・ショップに立ち寄るのをおすすめします。 森氏のデザインした小品が販売されていますから、こちらもお見逃しないように。

東京都千代田区北の丸公園3-1
AM10:00〜PM5:00 木・金曜日はPM8:00まで
(入館はそれぞれ閉館30分前まで)
営団地下鉄東西線「竹橋駅」下車徒歩3分
観覧料 一般=420円、高校・大学生=130円
問い合わせ 
TEL.03-5777-8600(NTTハローダイヤル)、http://www.momat.go.jp/
(東京国立近代美術館ホームページ) 


「白磁千段シリーズ」
土瓶 高9.3p、コーヒーカップ 高5.8p 1971年 
作品撮影:大堀一彦/中嶋勇 




1ページ | 2ページ | 3ページ
tougeizanmai.com / バックナンバー