インターネット版 No.17  全2ページ 1 | 2 

1 ・現代陶芸の旗手達 (1)
2 ・茶とやきもの 28 ・・・ 井戸茶碗に匹敵する「・・・・二萩三唐津」の味わい
・BOOK ・・・ 「おいしい器の使い方」

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 「現代陶芸の旗手達」において紹介する作家は、制作の本拠・所属団体・作風など異なるものであるが、現代日本の陶芸界において第一線で活躍し、少しも停滞することなく新たな創造を目指し鎬を削っているものたちである。勿論この他に陶芸界の長老とみなされている傑出した作家も幾人かはいるが、ここでは大家は除き、今最も脂ののりきった充実した活動の時期にあり、今後の陶芸界の担い手となるべき新鋭・中堅陶工たちに限定する。

 収録内容は、近作を中心とした代表作品・プロフィール・取り扱いギャラリーなどで、解説は作家の人と作品を論じたものとした。

 また、紹介作家は、現代日本の陶芸界を代表するもので、陶芸家のステータスシンボライズエンサイクロペディア「現代陶人名鑑」に収録保存し、陶芸ユーザーのニーズに応えるものとする。



九州・沖縄
・薩摩焼
15代 沈 壽官 15th Jukan Chin
1959年8月生
〒899-2431 鹿児島県日置郡東市来町美山1715
TEL. 099-274-2358
「白薩摩酒器」
「白薩摩朝顔香炉」
「兎脚皿」
Profile
1959年 鹿児島県に生まれる。父は14代沈壽官。
84年 早稲田大学教育学部卒業。京都で修行ののち、イタリアに渡り国立美術陶芸学校卒業。 また叩きの技術を修めるために韓国に渡り、キムチの甕作りなど学んだ。
99年 15代を襲名。
●主な作品のテーマ
薩摩の地で、陶を作る者が、なにを為すべきか。
●主な制作技法
精緻な透彫り、上絵付、細工など
●胎土の種類
白薩摩、黒薩摩
●主に使用する窯の種類
登窯
●師
セルジオ・グリオリ
●工房見学
可(JR鹿児島本線東市来駅下車)
Message
これからは日本全国、できればアジアでも作品を発表して参りたいと思います。 日本の工芸の良き伝統を正しく伝えながら、そのなかで自分の表現をどんどんやっていきたい。
華麗な上絵付に感じられるそこはかとない美しさ
 薩摩焼、とりわけ苗代川窯の開窯は、文禄・慶長の役(1592〜98年)以降、薩摩藩主・島津義弘が朝鮮半島から陶工を連れ帰ったことにはじまりますから、およそ400年の歴史があります。 その伝統をひとり守り続けてきたのが名門・沈壽官家です。
 とくに藩から武家屋敷を与えられ、御用窯を務めたほどの沈家の得意技は、白い胎土を用いて作られる御用品の白もん(白薩摩、錦手など)で、それは当代にまで受け継がれた気高い伝統といえます。 一方、庶民の暮らしのなかで使われた器・黒もんの温かさにも、捨てがたい魅力があります。 そしてそれらの良さを重ね合わせるようにして作られる器が、当代沈壽官氏の作品です。
 鍛えられた細心の技だけを使って、気の遠くなるほど丁寧に細工された白いボディーには、華麗な上絵付が控えめに施されています。 そんな作品に感じるそこはかとない美しさには、日本人の心の奥底にたたずむ哀愁が、見事に活写されているように思えて仕方ありません。
■作品扱いギャラリー
◎沈壽官窯/TEL.099-274-2358
鹿児島県日置郡東市来町美山1715
の目
 伝統の薩摩焼技術は確実に継承されている。薩摩貫入はシンプルなほど美しさを引き立てるものであるが、無駄のない飾りとフォルムに吸引力を感じさせるものがあり、これからの作品に大きな期待を寄せたい。




近畿
・伊賀焼
谷本 洋 Yoh Tanimoto
1958年11月生
〒518-0022 三重県上野市三田2305
TEL. 0595-24-0030
E-mail yoh33iga@ict.ne.jp
「伊賀耳付水指」
「伊賀耳付花入」
「伊賀耳付水指」 「伊賀耳付水指」
「伊賀耳付花入」
岐阜・画廊文錦堂個展パンフレット
千葉・千葉三越個展パンフレット
名古屋・三越栄本店個展パンフレット
大阪・近鉄上本町店個展パンフレット
熊本・鶴屋個展パンフレットより
Profile
1958年 三重県上野市に生まれる。父は谷本光生。
81年 京都府立陶工訓練校修了。
82年 京都府立工業試験場修了。
伊賀焼三田窯にて、父のもと作陶生活に入る。
84年 フランスに渡る。パリ・グランシュミエールにてデッサンを学ぶ。
造形作家J・G・アルチガス(スペイン)の助手を務める。
パリ郊外にアトリエを設け作陶。
88年 独立
92年 スペイン・バルセロナのアルチガス財団に滞在し、作陶。
95年 アルチガス財団にてスペインの陶芸家を対象にセミナーを開催。 のち毎年、バルセロナにて制作。
●主な作品のテーマ
伊賀の伝統を踏まえ、また花入、水指という道具としての機能性を考慮し、決まりのなかで、作る側の個性、エッセンスを注入し、制作する。
●主な制作技法
ロクロ、タタラ、紐作り
●胎土の種類
茶碗、花入は木節ベースの細かい粘土、壺、大鉢などは蛙目ベースの荒い粘土
●使用する窯の種類 
穴窯、登窯
●師
父・谷本光生、J・G・アルチガス
●工房見学
  可(要予約、近鉄伊賀線上野市駅下車)
Message
作品にはかならず作者の個性や品格が反映されます。 また、伊賀焼は格調の高さと豪快さが使命とされています。 すなわち作品作りとは、自分作りにあると思われます。古伊賀の素晴らしい作品の写しではなく、今の時代の必然性を意識し、格調高い作品を作りたいと日々考え、作陶しています。
制約を課したうえで模索する伊賀焼の普遍的な美
 わが国を代表する焼締め陶・古伊賀の名品は、あちこちの美術館に収められていて、日本美の典型ともいわれています。 現代の伊賀を代表する陶芸家・谷本光生氏を父に持つ洋氏は、伊賀に伝わる伝統的な技術を修得しました。 表層的なもの作りが横行する昨今、あくまでも伊賀土を使って、穴窯や登窯で焼成して作る作品作りを基本とします。 しかしそうして作られるものは、単に過去の伊賀焼をなぞって作られるフェークなどではありません。 たとえば、たっぷりと灰釉の掛かった楕円や矩形の小皿は、伊賀のザックリとした土の表情を大切に保っています。 そしてしかし、そこにはポップで無邪気な線刻模様が描かれていて、現代的でとてもシャレているのです。
 伊賀という様式美、また茶道具や器としての機能を決して損なわない範囲のなかで、いわば自らに制約を課したうえで、現代にもつながる美を、つまり普遍的な美を模索しながら作っている陶芸家だと思えます。
■作品扱いギャラリー
◎土味/TEL.0595-23-2162
上野市丸ノ内177
の目
 古伊賀の重みに押し潰されがちな作家の多い中、確実な技術力と表現力を身につけている。やや若さを感じさせる面はあるが、独特な造形美は将来に期待がかかるもので、伊賀焼の代表作家となることは間違いないだろう。




東北
・会津本郷
宗像 利浩 Toshihiro Munakata  
1957年3月生
〒111-1234 福島県大沼郡本郷町本郷上3115
TEL 0242-56-2174
「利鉢」
「鈞窯天目茶碗」
Profile
1957年 会津本郷町に生まれる。
77年 京都 嵯峨美術短期大学を卒業。
出西窯などで修行の後、会津へ戻る。
90年 「明日への茶道美術公募店」にて釣窯天目茶碗入選。
96年 朝日現代クラフト展招待出品。
97年 日本陶芸展にて準大賞(日本陶芸展賞)受賞。
伝統工芸士認定。
99年 会津大学短期大学部非常勤講師。
00年 NHKやきもの探訪展招待出品。
01年 日本陶芸展推薦招待出品。
●主な作品のテーマ
  会津の風土でしか生まれない木訥で、骨太な作品を作りたい。
●主な制作技法
生掛け、鉄結晶釉、灰釉
●胎土の種類
会津本郷付近で採れる土
●主に使用する窯の種類
登窯を基本とし、ガス窯を併用
●師
父・7代目宗像亮一
●工房見学
  可(JR只見線会津本郷駅下車)
Message
常に、自己ベストを目指していきたいと思います。
使用者との間に育む心地よい関係
 東北の名窯といわれる宗像窯の創窯は1718年といわれていますから、およそ300年の歴史があります。 なかでもこの窯の特徴をもっともよく表すのは、伸び伸びとした形の飴釉や鉄釉の実用的な器です。 これらはどれも丸まるとした形をしていて、健やかで豊かな器としての印象を強く受けます。 では、なぜ角のない丸い形が選択されているのかといえば、それは器を丈夫で強くするための工夫なのです。
 ところが鉢や皿の縁が丸くなく、平でシャープに作られたものも見つかります。 これらが「利鉢」と呼ばれている宗像利浩氏の作品です。 「どんなに丈夫に作っても、粗雑に扱えば器はかならず壊れてしまう」ことに着目し、丸く作っていたのをあえて平にしました。 つまり、使用者と作者の間にある器に対する意識変革を促そうとし、あえて緊張関係を作ったのです。 そうすることによって両者の間には、これまでになかったような一層心地よい相互関係が生まれると、宗像氏は考えています。 そしてその一方で、そういった創作意識が無意識へと転化しなければ、優れたものは生まれないとも思っています。 きっとその時、歴史に残るような名器が会津本郷に誕生するに違いありません。
■作品扱いギャラリー
◎宗像窯展示室/TEL.0242-56-2174
福島県大沼郡会津本郷町字本郷上3115
の目
 伝統を踏まえつつもオリジナリティーを感じさせる大鉢。シンプルを極めるロクロ技術は確かなものといえる。日常の器を中心とした、素朴で骨太な作品は一般ユーザーの人気も高く、一歩進んだ作品に期待がかかる。




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