インターネット版 No.11  全2ページ 1 | 2

1 ・こだわり旅手帖 6 ・・・ 美濃焼(後編)
2 ・使ってみたい!!釉薬 29 ・・・ 黒マット釉+石灰系織部釉
・目にも旨い!男の簡単Cooking (24) ・・・ 生春巻き

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   (後編) 


(岐阜県) 多治見市 


■美濃焼物語 
◎昭和5年の大発見
 昭和5年(1930)、たった1つの陶片が、日本やきもの史上の “ナゾ” を解き明かすという大事件が起きました。 のちに人間国宝となった荒川豊蔵による、「古志野筍絵陶片」の発見です。 その日豊蔵は、3日前にある旧家で見た古志野茶碗とまったく同じ鉄絵の描かれた志野茶碗の破片を、美濃・大萱(おおがや)の窯跡で見つけ出します。 それは、桃山の志野が美濃で焼かれた可能性を示す画期的な出来事でした。 同時に、美濃焼にとって、輝かしい歴史を誇る幕開けとなったのです。
 陶片発見はまったくの偶然ではなかったといいます。 瀬戸産といわれていた古志野茶碗を見た豊蔵は、高台に付着した土に見覚えがありました。 それが生まれ故郷・美濃の土ではと見抜き、すぐに窯跡に赴き発見したというのですから、その慧眼と行動力、そして強運には驚かされます。 その後の調査で、美濃一帯の窯場で桃山時代に志野が焼かれていたことが分かりました。 続いて織部、黄瀬戸、瀬戸黒の古窯も発掘され、桃山陶が美濃産であることが立証されたのです。
 それにしても、なぜそれほど長い間ナゾだったのでしょう・・・。 豊蔵の発見まで古志野の窯跡は特定されていませんでした。 志野をはじめ、桃山の陶器が瀬戸で焼かれたのではと推測されていたからです。 そういえば、美濃焼なのに “黄瀬戸”、“瀬戸黒” と瀬戸の名が付くのも不思議に思えます。 その謎解きには、美濃焼の歴史をもう少しさかのぼってみる必要がありそうです。

美濃が陶都として発展したのは、良い土に恵まれたことも大きな理由。 たとえば「志野」は、この地方特有の珪酸分を多く含む鳥屋根珪石の性質をうまく利用したものといわれています。



◎瀬戸焼と呼ばれたのは、なぜ? 
 美濃では古墳時代から須恵器が焼かれていたといいます。 平安時代になると白瓷(しらし)と呼ばれた灰釉陶器が焼かれ、陶器産国として知られるようになりました。 平安中期の律令の施行細則だった『延喜式』にも「陶器調貢の国」と定められたほどです。 そして、鎌倉〜室町時代の無釉陶器、いわゆる「山茶碗」の生産へとつながっていきます。
 一方、室町後期の16世紀になると、鎌倉時代以降中国のやきものを模倣して施釉陶を焼いていた瀬戸の窯が戦国の戦乱を避けてしだいに移動し、美濃の地へやって来ました。 現在の多治見市、可児市、笠原町付近です。 これによって美濃では瀬戸仕込みの施釉陶器が生産されるようになり、安土・桃山時代の茶陶の隆盛へと突き進んでいったのです。
 こんな事情があったため、美濃で焼かれた施釉陶器も一般には瀬戸焼と呼ばれて流通していました。 それに当時は「美濃焼」という窯名も存在せず、そう名乗るようになったのは江戸後期〜明治期とずっと後のこと。 瀬戸黒、黄瀬戸という名前の由来も、どうやら、こんなところにあったようです。
 
 さて、日本の陶芸史に燦然と輝く桃山茶陶の時代、数々の名品はこの美濃の地で、いったいどのように生まれたのでしょう。 そもそも茶の湯の権威・千利休が、自身の侘び茶の理念を反映させた茶碗を、京都の陶工・長次郎に作らせた(1580年頃)ことが始まりでした。 茶の湯の世界ではそれまでの唐物茶碗から一斉に創作物の茶碗へと流行が移り、それに素早く反応したのが美濃の窯場だったといわれています。
 つまり長次郎の黒茶碗からヒントを得て、「瀬戸黒」を誕生させたのです。 これは、鉄釉を施した茶碗を焼成中の窯から釉薬が熔けている最中に引き出し、急冷して一挙に酸化させて漆黒の釉を得たもので、「引出黒(ひきだしぐろ)」とも呼ばれています。 長次郎の黒楽茶碗とは異なる製法によるもので、当時の創意工夫には本当に驚かされます。 続いて志野釉、黄瀬戸釉を開発し、やがて緑釉と鉄絵を組み合わせた「織部」が生まれました。 今に語り継がれる桃山陶芸の黄金期です。 この創造のパワーはまったく圧倒的でした。
 ところが17世紀の後半になると、これほどの桃山陶がやきもの史上から忽然と消えてしまいます。 茶の湯の流行が変わり、また肥前生まれの国産の「染付」がもてはやされるようになって衰退したと一説にいわれています。 当時を記録した文献もなかったことから、明治期に茶の湯が復興して桃山陶が再評価されるまで、その生産地さえも忘れ去られていきました。 これら一連のいきさつがあって、桃山陶は明治期になっても瀬戸焼と漠然と信じられていました。 美濃焼であることを立証した荒川豊蔵の陶片発見が衝撃的だった理由は、ここにあったのです。
 
 さて、桃山茶陶が消えても、美濃焼は日常雑器を焼く窯として続いていました。 江戸時代には美濃青磁と呼ばれた「御深井」も生まれています。 やがて江戸後期になって磁器の生産がはじまると、陶器から磁器へと急速に転換。 近代化の波に乗って、明治〜昭和へと続く大窯業地への礎を築いていきました。
 現在は、名実ともに「陶の都」と呼ばれる美濃。 時代をとらえる開放的な気風とダイナミックな対応力は、桃山以来の美濃の窯場に、今も確かに息づいています。



■ヴューポイント
●岐阜県陶磁資料館
美濃焼の産地・多治見市、土岐市、瑞浪市、笠原町の3市1町運営の財団法人が経営する東濃地方最大のやきもの資料館です。 所蔵品は約5万点。 館内は、美濃焼千年の流れ展示室、桃山展示室、磁器展示室、現代陶展示室、企画展示室の5セクションに分かれ、古代から現代まで、貴重な品々をたどりながら美濃焼の全容に触れることができます。 とくに志野、黄瀬戸、織部、瀬戸黒などの桃山陶を知りたいなら、ぜひ訪れたいところ。 年に4、5回が開かれる企画展も好評です。 茶室では抹茶サービス(有料)もあります。
◎住所/多治見市東町 1-9-4
◎TEL/0572−23−1191
◎開館時間/AM 9:30 〜 PM 4:30
◎休館日/月曜日、祝日の翌日、年末年始
◎入館料/大人300円 

●多治見市陶磁器意匠研究所
陶磁器産業の振興のために多治見市が運営する試験・研究機関で、通称 “意匠研” と呼ばれています。 と、ここまではどこの産地にもある施設のようですが、意匠研が特異なのは、全国から陶芸を志す若者が集まる人気の人材育成機関であること。 OB、OGにはプロとして活躍する陶芸家や陶磁器デザイナーも多く、注目されています。 ここでは、絵付の技法、デザインなどの最新テクニックを見学できます。
◎住所/多治見市美坂町 2−77
◎TEL/0572−22−4731
◎開館時間/AM 9:00 〜 PM 4:30
◎休館日/土・日曜日、祝日、年末年始
◎入館料/見学無料(※多人数の場合は予約が必要です) 

●根本連房式登窯
美濃地方に残る貴重な磁器の古窯跡。 ここで焼かれた精緻な染付磁器は「根本焼」と呼ばれて明治期に頂点を極めましたが、この登窯を最後に途絶えています。 美濃周辺には確認されているだけで1000カ所もの古窯跡があるといわれますが、ここは多治見市の文化財に指定されていて、一見の価値あり。 美濃焼の栄華の一端を感じさせてくれます。
◎住所/多治見市根本町

●駅前広場のモニュメント
多治見では市内のあちこちで地元陶芸家の手による陶のモニュメントに出会えます。 まずJR多治見駅を降りると待合室に陶壁、駅前広場には人間国宝・加藤卓男氏や鈴木蔵氏らのオブジェが設置されています。 また土岐川の河川敷はタイルで加飾され、橋の上には織部焼のモニュメントがあったりして、まるで野外ギャラリーのようです。 器探しの合間にも、どうぞ、お見逃しなきように。 

●オリベストリート
多治見では今、古いものを活かした新しい町づくりが進められています。 コンセプトは、古田織部の斬新な精神性=オリベイズム。 その開発エリアが、やきもの都市・多治見の歴史を色濃く残す本町筋です。 オリベストリートと名付けられた約400mの通りには、明治初期から昭和初期に建てられた商家や蔵に交じって個性的な店舗が並びつつあります。 中心のたじみ創造館には、観光情報も得られるPRセンターや、ギャラリー、体験工房などがあります。 多治見駅から徒歩15分。バスなら多治見橋下車、徒歩1分。
◎住所/多治見市本町 

●前畑陶器ショールーム
美濃には、大産地らしく、全国区の陶磁器メーカーがいくつかあります。 その1つが陶都大橋近くにある前畑陶器(株)です。 テーマ別にコーディネイトされた器が3フロアに及ぶ展示スペースに並ぶさまは、まさに壮観。 磁器の洋食器なら、これぞ!と思うものにかならず出会えそうです。 量産品だけに、価格もお手ごろです。
◎住所/多治見市前畑町 2−12
◎TEL/0572−24−1111
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 5:30
◎休業日/日曜日、祝日、土曜日不定休 

市の中心部を流れる土岐川の流れ。 堤防には桜並木があって、お花見シーズンには人気の観光スポットになります。 ここに架かる陶都大橋や多治見橋は、散策の起点として覚えておくと便利です。

●美濃焼卸センター・美濃焼スクエア
約50軒もの陶磁器卸会社が集まっています。 卸センター直営のショールームもあり、新作や試作品が見られるほか、日用の和洋食器から作家物まで網羅的に製品をそろえています。 またここは、毎年10月に行われる「たじみ茶碗まつり」の会場としても有名。 建物の2階には上絵付工房も併設されています。
◎住所/多治見市旭が丘 10−6−33
◎TEL/0572−27−2889
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 5:30
◎休業日/年末年始 

●花御堂
多治見の器シーンの “今” を代表するようなショップ&ギャラリーです。 場所は、最近の注目エリア・オリベストリート近く。 蔵をイメージしたおシャレな建物には、オリジナル食器が中心のショップ「うつわ花御堂」、陶芸・布・ガラス・版画などの企画展が開かれる「ギャラリーやまぼうし」、そして、併設のレストラン「櫻」では、和食器に盛られたフランス料理が堪能できるという仕掛けです。 実際の器使いをイメージしやすいので、選ぶのも楽しそう。 作家物も展示しています。
◎住所/多治見市本町 6−2
◎TEL/0572−25−5600
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 6:00
◎休業日/毎週月曜日

●虎渓山永保寺
虎渓山は、中国・廬山の虎渓の渓谷美に似ていることから名付けられたといわれる景勝地です。 その自然林に建つ永保寺は、約680年の歴史を持つ臨済宗南禅寺派の名刹。 日本3名園の1つという池泉回遊式庭園や、国宝の開山堂、観音堂は見応え充分です。 そしてやきものファンなら、陶製の織部灯籠はやはり見逃せません!
◎住所/多治見市虎渓山町 1−42
◎TEL/0572−22−0351
◎開山時間/AM 5:00〜PM 5:00
◎拝観料/無料 
虎渓山永保寺の回遊式庭園は国の名勝にも指定されています。その風情も見事ですが、やきものファンなら織部焼の大灯籠を、どうぞお見逃しなきように!

●神言会多治見修道院
日本3大修道院の1つが、ここ多治見にあります。 1930年、神言会の日本管区総本部としてドイツ人モール神父によって建てられました。 見どころは、バロック建築の建物、大聖堂天井のフレスコ画、壁画、ステンドグラスなど、異国情緒にあふれたものばかり。 修道士手作りのワインやクッキーも人気で、目先の変わったお土産になりそうです。
◎住所/多治見市緑が丘 38
◎TEL/0572−22−1583
◎開館時間/AM 9:00 〜 PM 4:00
        (礼拝堂の一部のみ見学できます)
◎閉館日/毎週月曜日、年末年始 

十字架の建つ塔が目を引く神言会多治見修道院は、定番の観光スポットです。 フレスコ画、ステンドグラスなど内部はとても神秘的。 美濃焼の純日本と異国情緒の組み合わせはなかなか刺激的な旅になりそうです。



■情報BOX 
●多治見陶器まつり
多治見陶磁器卸商業協同組合が主催し、多治見橋からオリベストリート付近に80店あまりの露店が出店します。 さすが陶都のやきもの祭りだけあって、一般の和洋食器はもちろん、業務用、割烹用、デザイナーズ・ブランドものまで、ほとんどの器が見つかりそう。 2日間で12〜13万人の人出というのもうなずけます。 市価の2〜5割引きだから、この機会に組物などを手に入れるのも、賢い買い方かもしれません。
◎問い合わせ先/多治見市農林商工課
◎TEL/0572−22−1111
◎場所/多治見橋〜市役所付近
◎期日/4月第2土・日曜日 

多治見では年に2度の陶器祭が開かれます。 春の「多治見陶器まつり」(4月)を見逃しても、
秋の「たじみ茶碗まつり」(10月)で掘り出し物が待っているかもしれません!

●たじみ茶碗まつり
こちらは秋の陶器祭。 かつて美濃焼団地まつりといわれていたのが改名したもので、春の「陶器まつり」と同様、茶碗ばかりでなく美濃焼なら何でもそろいます。 出店は60店舗以上、人出も10万人以上と大盛況。 県外からも多くの美濃焼ファンが詰めかけます。
◎問い合わせ先/多治見市農林商工課
◎TEL/0572−22−1111
◎場所/美濃焼卸センター
◎期日/10月中の土・日曜日

●体験施設 遊陶里工房
ビギナーにもお勧めの市営の作陶施設です。 指導員の丁寧なアドバイスには定評があるので、まったく土に触ったことがなくても安心。 手びねり、ろくろ、タタラなど、いろいろな成形方法にチャレンジできます。 形作りが済めば、好みの釉薬を掛けて焼き上げてくれます。 織部、黄瀬戸、志野などがチョイスできるのは美濃ならでは!
完成までに2〜4ヵ月かかっても、自作を手にした喜びはひとしおです。 希望者には発送もしてくれます。
◎住所/多治見市東町 1−9−17 (安土桃山陶磁の里内)
◎TEL/0572−25−2233
◎営業時間/AM 9:30 〜 PM 4:30
◎休業日/毎週月曜日、祝日の翌日、年末年始
◎料金/1300円 
※予約が必要です。

●体験施設 ギャラリーO(オー)工房
オリベストリートにあるたじみ創造館3Fにオープンした市営のギャラリー&体験工房です。 ギャラリーOでは陶芸展、絵画展などさまざまな企画を開催。 多治見の新しい才能に出会えるチャンスかもしれません。 また、気軽に上絵付が楽しめるのがO工房です。 本焼後に描き、再び焼成が必要な上絵付はややハイレベルな技法。 なかなか挑戦しにくいものです。 でもここなら準備されたマグカップや洋皿の白生地に描くだけでOK。 約2週間待って、焼き上がりを受け取る気分は格別です。 希望すれば郵送もしてくれます。
◎住所/多治見市本町 5−9−1 たじみ創造館3F
◎TEL/0572−23−9901
◎開館時間/AM 10:00 〜 PM 8:00 (※上絵付の受付はPM7:00まで)
◎休館日/毎週水曜日、年末年始
◎上絵付料金/500円〜

●体験施設 虎渓窯・陶芸道場
陶芸家が主宰する窯に併設された作陶施設です。 虎渓公園に近く、緑に囲まれた工房は趣があり作陶の雰囲気を盛り上げてくれそうです。 永保寺や修道院が徒歩圏内という観光のロケーションの良さも、ここの特徴。 虎渓窯の展示室では、ショッピングも楽しめます。
◎住所/多治見市虎渓山町 2−29
◎TEL/0572−22−0129
◎営業時間/AM 9:00 〜 PM 5:00 (12:00〜13:00は休憩)
◎休業日/毎週火曜日 



■アクセス 

◎電車/名古屋駅からJR中央本線多治見駅まで、快速でおよそ30分。
◎マイカー/中央自動車道多治見ICから。 東京から約5時間30分。 大阪から約2時間30分。 


■総合問い合わせ先 

多治見市役所農林商工課/TEL.0572−22−1111
多治見市観光協会/TEL.0572−24−6460
多治見市PRセンター/TEL.0572−23−5444
岐阜県東京事務所六本木センター/TEL.03−5771−5221

http://www.city.tajimi.gifu.jp/
http://www.tajimi.com/
http://www.minoyaki.gr.jp/
 
写真協力:多治見市役所農林商工課



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