インターネット版 No.10  全2ページ 1 | 2

1 ・こだわり旅手帖 6 ・・・ 美濃焼(前編)
2 ・茶とやきもの 26 ・・・ 「お茶の回し飲みは、なぜ、はじまったか」
・器で愉しむお茶時間 16 ・・・ カップ&ソーサーと小皿

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織部といっても素地や釉薬、製法などの違いによって、青織部、総織部、志野織部、鳴海織部、赤織部、織部黒、黒織部といろいろな種類があります。 この沓(くつ)茶碗は、銅緑釉を部分的に掛けて鉄絵を描いた、青織部と呼ばれるものです。 

     

   (岐阜県) 多治見市



◎美濃は、日本の陶都
 美濃焼と聞いたら、どんなやきものをイメージしますか・・・。
 そういえば、デパートの美濃焼コーナーには志野、織部、黄瀬戸といった、いずれも日本の美を象徴するような器が並んでいて、これらのいわゆる「桃山風」といわれるやきものの生誕地がこぞって美濃であることに、改めて驚かされたりします。 一方で、備前焼や唐津焼のように確固とした1つの美濃焼スタイルが浮かんでこないのも、また事実です。 そしてこれが、美濃焼は “特徴がないのが特徴” といわれるゆえんでもあります。
 つまり、それほどに多彩な製品が焼かれているということ。 たとえば美濃焼の伝統的工芸品を見てみましょう。 志野、織部、黄瀬戸、瀬戸黒にとどまらず、灰釉、天目、染付、赤絵、青磁、鉄釉、粉引、御深井(おふけ)、飴釉、美濃伊賀、美濃唐津と、なんと15品目が通産大臣の指定を受けています。 また、和食器、洋食器とも全国シェアの50%以上、タイルは50%近くが、実は美濃焼です。
 「桃山陶の故郷」と聞くと保守的でディープな茶陶の里をイメージしそうですが、どうやら “何でもござれ” 的なたくましさも併せ持つのが現代の美濃の実像といえそうです。 まさに、「日本の陶都」というキャッチフレーズがピッタリの一大産地なのです。
 ところで、美濃焼の名は旧国名の「美濃」という地名に由来します。 現在の行政区分でいえば岐阜県の東濃地方に当たり、多治見(たじみ)市、土岐(とき)市、瑞浪(みずなみ)市、さらに可児(かに)市と土岐郡笠原町を含む広範な地域が生産地となっています。 とくに、多治見はその中心です。 名古屋から距離にして36km、JR中央本線や中央自動車道が走る交通拠点で中部経済圏の一翼を担う位置にあるためか、各生産地から焼き上がった製品が集まり商業地としてもにぎわっています。 それだけに多くの施設やショップが充実していて、美濃焼探訪の拠点とすれば、やはり便利です。 そこで今回は、多治見を中心に現在の様子を見ていきましょう。



美濃では、予約をすれば工房見学ができる窯元もあります。公営、私営の作陶施設も充実。
やきものの本場で、思いきり土と触れ合ってみましょう。  


◎「セラミックパークMINO」がオープン
 多治見には、盃の市之倉、徳利の高田、碗や丼の滝呂といった、もともと分業生産をしていた街々があります。 古くからの窯元もこの地区に点在していて、たとえば市之倉には、人間国宝の加藤卓男氏が6代目をつとめた幸兵衛窯(現在の当主は7代加藤幸兵衛氏)をはじめ、玉山窯、仙太郎窯、住吉窯など、老舗の窯元が軒を連ねています。 高田地区にある水月窯は、人間国宝だった伝説的陶芸家・荒川豊蔵の子息らが主宰する窯元です。 また、比較的駅近くにも、リーズナブルでセンスのある和食器を提案して注目株の蔵珍(ぞうほう)窯があったりします。 窯元では工房見学ができたり展示室で販売もしていますが、予約が必要な場合も多く、あらかじめ問い合わせておくのが賢い方法です。
 予約なしでも楽しめるのが、市内随所にある器店です。 スーパー並みの大店舗から粋な老舗風、モダンなギャラリー風まで、扱い作家や器の見せ方に店主のこだわりと愛情が感じられ、窯元とは違った興があります。 若手や旬の作家情報を得るチャンスも巡ってきそうです。 また、前畑陶器など量産メーカーのショールーム兼ショップが見受けられるのも、大産地ならではの風景といえるでしょう。 さらに、岐阜県陶磁資料館をはじめとした、公営や私営のやきもの見学施設・体験施設の充実ぶりも見逃せません。
 そして、個人の陶芸家たちにいたっては多治見はもちろん、美濃全域に居を構えて創作活動を行っています。 隣接する瀬戸が日展系なのに対し、美濃では圧倒的に伝統工芸系の作家が多く、その頂点にある人間国宝を現在2人も擁しています。 そして、このリーダーたちの仕事の軌跡を通して、美濃の作家群像が少しだけ見えるような気がします。
 加藤卓男氏は、桃山陶の伝統を継ぐ名窯の当主でした。 しかしながら、個人の作家としてペルシャ陶器への想いを作品に昇華させ、ラスター彩で国宝の認定を受けました。 かたや、鈴木蔵氏の認定理由は、ガス窯による現代志野を創造したことによるものです。 同じく志野・瀬戸黒の人間国宝だった荒川豊蔵が、桃山陶を当時の技法で再現しようとしたのとは対照的で、あくまで現代技法にこだわったところに作家の気概を感じます。
 さて、現在多治見市では、古田織部の斬新な精神=オリベイズムを掲げて、古いものを生かしながらの新しい町づくりが進められています。 多治見橋からのびる本町筋と市之倉地区が、その中心スポットです。 また2002年秋には、陶磁器文化をテーマにメッセ施設、美術館、作陶施設などを整備した、これまでに類を見ない大プロジェクト「セラミックパークMINO」が東町にオープン予定です。 ここを会場に、国際的なコンペティションとして定着した「国際陶磁器フェスティバル美濃」の第6回展も開催されます。
 町中が活気づく2002年。 陶都・美濃の探訪は、そろそろ “旬” を迎えています! 



■ヴューポイント

●幸兵衛窯
美濃を代表する名窯の1つです。 1804年に開窯した幸兵衛窯は市之倉でもっとも長い歴史を持つ窯元で、当主は7代加藤幸兵衛氏。 6代目が人間国宝・加藤卓男氏であることでも知られています。 展示室は、200年前の民家を移築したという圧倒的な風格の本館と、モダンな新館に分かれています。 まず、幸兵衛窯の窯物をもとめるなら新館の1階へ。 織部、志野、赤絵、染付など、品のいい丁寧な作りの器に出会えます。 2階は卓男氏の作品展示室になっています。 また、ここで見逃せないのが古陶磁資料館です。 美濃古陶をはじめ、卓男氏が収集したというラスター彩の陶片や完器、ペルシャ青釉や緑釉の資料、古代ガラス、青銅器など、千数百点ものコレクションはまさに圧巻。 人間国宝の創作の軌跡に触れることができます。
◎住所/多治見市市之倉町 4-124
◎TEL/0572-22-3821
◎営業時間/AM 9:00 〜 PM 5:00 (正午 〜 PM 1:00休館)
◎休業日/毎週日曜日、第2・第4土曜日、祝日
◎入館料/古陶磁資料館のみ有料 300円 
※見学はあらかじめ予約が必要です。


●水月窯
志野と瀬戸黒の人間国宝だった故荒川豊蔵が、生前に建てた窯です。 虎渓山の林に囲まれた雰囲気のある工房では、半地上式大窯と単室の登窯が今も現役で活躍。 茶器や食器が、現在では珍しくなった昔ながらの方法で焼かれています。 豊蔵ゆずりの温かく豊かさを感じさせる作風が、水月窯らしいと評判の窯元です。
◎住所/多治見市虎渓山町 7-14
◎TEL/0572-22-1990
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 5:00
◎休業日/毎週日曜日、祝日 
※見学はあらかじめ予約が必要です。


●蔵珍(ぞうほう)窯 

多治見駅から車で5分ほどのところにある比較的新しい窯元です。 「良質な食器を廉価で」提供しようというポリシーのもと、作られる器は伝統的でありながらどこかモダンな趣。 価格もリーズナブルで、和食器の新興ブランドとして定着しました。 磁器が主体ですが、とくに魯山人写しはこの窯のお得意。忘れずにチェックしておきましょう。 また、重厚な長屋門のある古民家風の建物など、多治見の街なかでありながら、窯元の風情をたっぷりと味わえるのも魅力です。 時間が限られている時などにもおススメです。
◎住所/多治見市太平町 6-87
◎TEL/0572-25-6255
◎営業時間/AM 9:00 〜 PM 6:00
◎休業日/盆、正月

赤絵牡丹文鉢
   
 美術館                            工房中庭
 


赤絵付
  

染付
  

ろくろ
  

●まるひら陶苑
多治見駅から徒歩2分の便利な場所にあり、夜7時まで営業しているのも嬉しい陶器店です。 中堅作家の食器を中心に、茶器・花入などの品ぞろえに地元でも定評があります。 時折、お買い得品も!
老舗の陶器店が並ぶ「エルナードながせ」というアーケード商店街の入り口に位置しています。
◎住所/多治見市本町 1-74
◎TEL/0572-22-0819
◎営業時間/AM 9:00 〜 PM 7:00
◎休業日/毎週水曜日 

多治見駅から数分の商店街「エルナードながせ」には、卸しと小売りを兼ねた陶器店が軒を並べています。 窯元が集まるのは駅から少し離れたエリア。 車 かバスを利用しましょう。


●井筒
骨董店のようなしつらえの井筒は、「エルナードながせ」にある陶器店の1つです。 格調ある雰囲気ですが、高級品ばかりでなく大家から中堅作家の器まで豊富に扱っています。 店内には炉の切ってある小間もあり、和服姿の女主人のアドバイスを受けながら、ゆっくりと品定めができそうです。
◎住所/多治見市本町 3-30
◎TEL/0572-22-2907
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 5:30
◎休業日/毎週水曜日、第3日曜日 


●余白 
美濃在住の伝統的作家の作品を探すならここを訪れてみましょう。 巨匠から新人まで扱っていて、なんと希望する作家の茶碗で(指定料:1000円)その場で抹茶を飲むことができるのです。 また、この店がつとに有名なのは、遠方のファンも多いという懐石料理と、陶磁器の直しを良心的価格で請け負ってくれるから。 徳利の町・高田地区にあります。
◎住所/多治見市虎渓山町 7-11-4
◎TEL/0572-25-2005
◎営業時間/AM 10:00 〜 PM 8:00
         (PM5:00以降は要予約)
◎休業日/毎週水曜日 

 


林正太郎 赤志野

加藤孝造 引出し黒ぐい呑

鈴木蔵 志野湯呑

加藤卓男 藍彩壺



■情報BOX
●澤千
旧家の並ぶ本町筋にある澤千は会席料理の老舗です。 山間の陶郷・美濃では川魚が美味ですが、ここでは名物のうなぎをはじめ多治見の季節の味を存分に堪能できます。 もちろん器は地元作家の美濃焼。 渋い店構えも興を惹き、多治見に来たら1度はのれんをくぐってみたい店の1つです。 会席以外にも、肩の張らないうな丼などもあります。 
◎住所/多治見市本町 5-24
◎TEL/0572-22-3115
◎営業時間/AM 11:30 〜 PM 2:30、 PM 5:00 〜 9:00 (日曜・祝日はAM11:30〜PM9:00)
◎休業日/毎週水曜日 
(※なお、営業日、営業時間、料金などは予告なく変更される場合がありますので、お出かけの前にご確認下さい)


●老鰻亭 魚関
明治30年創業という、うなぎと日本料理の老舗です。 店名に銘打ってあるだけに、うなぎ料理にはこだわり有り。 蒸さずにじっくり炭火で焼いた蒲焼きはクセになりそうな口当たりです。 器は幸兵衛窯をはじめ上品な美濃焼に盛られていて、目でも味わえます。
◎住所/多治見市本町 4-32-1
◎TEL/0572-22-5355
◎営業時間/AM 11:00 〜 PM 1:30、 PM 5:00 〜 9:00
◎休業日/不定休
(※なお、営業日、営業時間、料金などは予告なく変更される場合がありますので、お出かけの前にご確認下さい)



■アクセス 

◎電車/名古屋駅からJR中央本線多治見駅まで、快速でおよそ30分。
◎マイカー/中央自動車道多治見ICから。 東京から約5時間30分。 大阪から約2時間30分。 


■総合問い合わせ先 

多治見市役所農林商工課/TEL.0572-22-1111
多治見市観光協会/TEL.0572-24-6460
多治見市PRセンター/TEL.0572-23-5444
岐阜県東京事務所六本木センター/TEL.03-5771-5221

http://www.city.tajimi.gifu.jp/
http://www.tajimi.com/
http://www.minoyaki.gr.jp/
 
写真協力:多治見市役所農林商工課



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