◎認められる“違い” |
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例年以上に来場者が多く、「九炉土展」会場内はムンムンとした熱気に包まれています。
今年のテーマは「掻落し」です。 この技法は生乾きのうちに、素地とは色の異なる化粧泥を塗って、その後に、今度はその化粧泥を竹串やヘラで線や面状に削ります。 筆を使わずに文字通り、掻落して文様を表現します。
もとは中国河北省の磁州窯や、朝鮮の李朝のものが有名です。 とくに磁州窯の白地黒掻落し文様は、世界的にもよく知られている磁州窯の代名詞的作風です。
岡本立世総長から「日本における掻落しは、古くは尾形乾山や石黒宗麿が作品に取り入れていますが、表現が正直にそのまま作品に出るため、誤魔化しがききません。
陶芸家のなかでも取り組む人はまだ少ないが、最近の陶芸展では大賞になる力作も、見受けられるようになってきましたよ」と伺いました。
しかしその反面、それだからこそ面白い手法といえ、取り組み甲斐のあるテーマだそうです。
そしていつもにも増して、今年も会場には、秀作や力作が勢揃いしていて、壮観です。
出品されたテーマ作品を見ていて思ったのは、まず『これらすべてが、本当に掻落し技法を使って作られたもの?』という疑問でした。 それほど変化に富んで多様で、同じような種類の作品は、ひとつとして並んでいないことにビックリします。
観覧者のなかにも、「このなかの、どれが掻落しの作品なんですか?」と質問し、全部のテーマ作品がそうだと知って、目を丸くする方もいました。
また別の来場者の女性は、「いろいろな作品が出品されてますが、本当に同じ教室で勉強している方の展覧会なの?」と、少し訝し気でした。 もちろん、それほどヴァリエーション豊かな出品作ばかりだからでしょう。
九炉土では性別や年齢はもちろん、個人的な志向にまったく関係なく、どんな個性も講師の先生方がガッチリ受けとめてくれます。 もちろんそれほど多くの個性に対応できるのは、充分な指導力が備わっていればこそのことです。
そしてそれは、岡本総長が九炉土創設以来、とくに精力的に取り組んできた指導のための独自の手法です。
ですから九炉土には、異端な受講生はいませんし、当然ながら画一的な指導や作品作りもありません。 九炉土流では、作者の様々な個性が認められ、活かされ、自己表現としての作品作りが可能です。
本展出品作の豊かな多様性からは、そういった背景が浮かび上がってきます。
そして出品者の皆さんには、達成感と満足感が残り、観覧者に新鮮な感動を与えた同展は、盛況のうちにエンディング・パーティーを迎えました。
席上、来年度のテーマが決選投票によって「蓋もの」と決まり、会期(2002年10月30日〈水〉〜11月3日〈日〉)を確認し無事、閉会となりました。 ■ |
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「掻落し」あ・ら・かると |
素地に白化粧し、花を線彫り(掻落し 以下同)。 また上下へストライプに線彫りし、バックに変化をつけます。 花をマスキング後、織部釉を全体に施釉しました。(神谷久美子さんの出品作)
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典型的な掻落し作品です。 蓋に白化粧泥を塗り、絵のバックになる部分を掻落し、模様(陽)を浮き上がらせています。 唐津釉を薄掛け後、焼成。(菊地順昭さんの出品作)
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素地に白化粧後、模様の輪郭を線彫りしました。 白地を活かして釉や顔料で彩色し、模様を強調した作品です。(中野敏子さんの出品作)
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素地全体ではなく、窓状に白化粧を施しました。 そして窓の中に線彫りし、模様自体に素地土の色をのぞかせながら、しかも立体感を出しています。(堀田光子さんの出品作)
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