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(14)  茶碗香炉
黒茶碗は、利休好みの一碗として知られています。その鮮烈な存在感が見る者を引き込みますが、それゆえ、ゾクゾクする逸話もまた、はらんでいました。

 漆黒の深みに映える初々しい緑。 抹茶の色と泡立ちの美しさがこれほど際立つのは、やはり黒茶碗ならではのこと。 茶碗を手掛ける作陶家が、やがては挑みたくなると聞きます。
 そんな黒茶碗ながら、長岡文さんの作からは気負いのない優しさが感じられ、好感が持てます。 きっと、スッと伸びた端正な胴や、包み込むように丸味のある口元が、そう感じさせるのでしょう。 二宮暢子さんのあでやかな香炉との相性もピタリ。 茶席をグッと盛り上げます。
 さて、そのお茶受けに、黒茶碗にまつわる逸話をひとつ。
 利休は茶の湯の師として秀吉に仕えましたが、やがて切腹を命ぜられ、壮絶な最後を遂げます。 その発端が、黒茶碗を巡る好みの違いだったというのです。 真偽は分かりませんが、三浦綾子が小説に仕立てていて、スリリングに読むことができます。 こんな器へのアプローチもまた、楽しいものですね。

三浦綾子の小説は、「千利休とその妻たち」。


作品:長岡 文 茶碗 高8.5 径11.0cm
作品:二宮暢子 香炉 高8.5 径8.5cm





一見伝統的な配色のようでいて、どこかモダンで、軽やかな印象のこの器。そこには、巧みな釉使いが隠されていました。
27 緋襷釉+灰系透明釉+4号トルコ青釉+青銅釉

 この作品は、まず片側の縁部分に、緋襷釉を3回ほど刷毛塗り。 残りの全体には、やや黄味を帯びて発色する透明釉を吹きつけます。 その際、緋襷釉に掛からないようマスキング。
 次に4号トルコ青釉を透明釉の上からうっすらと吹き重ね、さらに、ポイントとなるように一部に、青銅釉を吹きつけました。
 この青銅釉は、小粒でもピリリと辛い山椒のように、作品に絶妙な効果を上げています。 もしトルコ青釉の萌葱色だけならホワッと平板な印象のところ、青銅釉の深い緑と結晶がアクセントとなり、緋襷釉の強さとも引き立て合っているのです。


作品:石井静子 高5.5 径15.0cm
 さて、作業の成功の鍵は、吹きつける釉薬の量にあります。 トルコ青釉は、透明釉に吸収されないよう二吹きほど。 対して青銅釉は、フッと一吹きで十分です。
 まさに、釉の重ね掛けの妙へと誘うような作品です。



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