インターネット版 No.56 | 全2ページ 1 | 2 |
1 | ・<特集>笠間やきもの散歩 1 ・・・ 没後25年 八木一夫展と笠間(茨城県)探訪 |
2 | ・特選こだわり道具本舗 ・・・ 憧れの還元焼成を可能にした画期的な小型電気窯 R-101K |
笠間やきもの散歩<1> |
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没後25年 八木一夫展 と 笠間(茨城県)探訪 |
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没後25年を迎えた陶芸家・八木一夫の回顧展が、笠間市で開催されます。 200点もの代表的作品が鑑賞できるという同展を見ながら、春風に誘われてやきものの街・笠間を散策してみようと思います。 |
■無料周遊バスを利用
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江戸時代に創窯され、一大陶産地へと発展した笠間(茨城県笠間市)は、都心から最も近いやきものの故郷だといえます。 東京・上野駅からJR常磐線の特急に乗れば、笠間のもう一方の玄関口・友部駅まではおよそ70分ほど。 さらに友部で水戸線に乗り換えて笠間駅まで行っても、ほんの10分ほど。 移動の途中の退屈さを感じる前に、目的地に到着する距離です。 また、笠間駅と友部駅の間は、いくつかの陶芸スポットや観光施設などを経由しながら、無料の「笠間周遊バス」が運行(月曜日=運休)していますから、時刻を合わせて上手に利用すればすこぶる便利でお得です。 多少体力に自信があるという方なら、笠間駅前の観光案内所にレンタサイクルがあり、こちらは時間に拘束されず気ままにあちこちを走り回れて、足としてとても小回りが利きます。 幸いにも陶芸関連施設や窯元、ギャラリーなどは、広範囲に散在しているわけでもありませんから、暖かな春風を全身に感じながら陶業地を走り回るのも、なかなか爽快です。 |
■笠間駅
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■開館5周年の陶芸専門館 |
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さて、今回の散策では陶産地・笠間の中心的な存在となっている「茨城県陶芸美術館」にまず向かいましょう。 同館は笠間の東方に拡がる広大な丘の上に、「笠間工芸の丘」「匠工房笠間」(茨城県窯業指導所)などと共に、芸術の森公園の一角に建っています。 開館以来、「ときめく」「識(し)る」「楽しむ」をテーマにして、地元陶芸家の紹介にとどまらず、日本の陶芸史を俯瞰するような展覧など、優れた企画展を数々開催してきました。 そして今春、同館の開館5周年記念として「没後25年 八木一夫展」が開催され、衆目を浴びています。 京都の陶家に生まれた八木一夫(1918−79)は、戦後間もなく走泥社というグループを結成し、伝統的な様式にとらわれない新しい陶芸を模索しました。 そして、用途から離れた陶の造形的作品=オブジェ焼という分野を確立します。 その象徴として、また、後の日本の陶磁史に多大な影響を与えた歴史的作品が、「ザムザ氏の散歩」(写真参照)です。 一方で、古陶磁にも精通しており、優れた器やクラフト作品も多く残し、本展ではそんな八木一夫の全貌を知ることができます。 |
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■茨城県陶芸美術館
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開館5周年記念 没後25年 八木 一夫展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2005年4月23日(土)〜6月19日(日) (休館日=5月2日をのぞく月曜日) |
本展は、戦後日本の陶芸をリードした八木一夫の、没後25年を記念して開催される大規模な回顧展です。 オブジェといわれる造形作品はもちろん、器などの陶芸作品ばかりでなく、ブロンズやガラス、素描に版画、併せて200点の展示作品によって、その足跡を回顧しようとするものです。 こうして八木作品をまとめて鑑賞する機会を得ると、たとえば白化粧の花入などの最初期の作品群から、やがて口が小さくなって孔へと変化してやがて消え、「ザムザ氏・・・・」へと結実していく過程が、いたって自然な成り行きのように思え、とても興味深く感じられます。 黒陶の傑作や代表作もほとんど網羅されていますし、後年の白化粧の器、ブックのシリーズなど、八木一夫ファンならずとも、この好機を逃さずに見ておきたい出色の展覧会だといえます。 |
「ザムザ氏の散歩」 高27.5 径27.0×14.0p 1954年 |
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■笠間稲荷神社
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■茶寮蔵人
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■歴史ある笠間稲荷
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200点もの八木一夫作品を鑑賞した後は、きっと大きな感動とわずかばかりの心地よい疲労が入り混じっていることでしょう。 そんな時には、美術館のロビー横にあるミュージアムショップでゆっくりと買い物をしたり、レストランで一息入れるのもいいかも知れません。 ついでに、美術館と同じ芸術の森公園内にある「笠間工芸の丘」などを見学したら、せっかく笠間を訪ねているのですから、「笠間稲荷神社」へと向かうことにしましょう。 賑やかな仲見世を通り、いくつかの鳥居をくぐると、やがて社が見えてきました。 決して大げさな普請ではなく、静かな落ち着きある佇まいに好感が持てる建物です。 1300年以上の歴史ある神社なだけに、なんだか参拝すると特別なご利益がありそうな気がしました。 神社の入口の両脇は、お土産や地元の名産など、美味しそうなものを売る店々が軒を連ねています。 甘酒や炭酸まんじゅうなどの甘味があれば、老舗の地酒に味噌なども見つかります。 冷やかしで見て歩いているだけでも、人懐っこい店主らが次々と笑顔で話しかけてきて、体温がじわりと伝わってきます。 表の軒下に杉玉がぶら下がっていますから、造酒屋なのでしょう。 その奥にお茶を飲ませてくれる場所があるといいます。 半信半疑で行ってみると、なかなか美味しいコーヒーが振る舞われました。 隠れ家的なスペースで落ち着ける喫茶店です。 |
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■お土産
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■個性百出の笠間焼
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時間がまだもう少し残っていれば、「やきもの通り」周辺をぜひ散策してみましょう。 笠間焼は、18世紀の終わり頃、信楽の陶工・長右衛門の指導によって、久野半右衛門が現在の笠間市で作りはじめたのが起源だといいます。 陶業はその後、藩から保護奨励されて栄え、平清水焼(山形県)や益子焼(栃木県)などの他産地にも影響を与えるほどでした。 明治40年には19軒だった窯元も、昭和45年に30軒の窯元が操業し、55年には100軒を越えたというデータがあります。 さらに全国各地から、若い陶芸家たちがアトリエを求めて集まってきました。 この時期に、首都・東京という巨大消費地を背後に控え、笠間は大陶産地として急速に発展していった様子がよく分かります。 笠間焼の特徴は、特徴がないのが特徴といわれるほどの、多様さです。 伝統、クラフトから造形的なものまであらゆるものが作られています。 ギャラリーや窯元を見て歩いていても、笠間様式とでもいうようなスタイルは、まったくうかがえません。 それはそれぞれの作者が、個性を重んじた仕事をしているからでしょう。 しかし、自己に依存が高まってしまった分、販売ルートなども個人で開拓せざるを得なくなり、現在笠間は、試練の時期を向かえているという窯業関係者もいるほどです。 かつてのようにブームに乗って、ただ並べておけば売れる時代ではありません。 でもこういう厳しい状況下で、産地を回って器探しができるのは恵まれているのです。今あるものは、淘汰された結果として生き残ったもので、しかも各ギャラリーは精選した作品を、責任をもって並べているように思えました。 笠間焼共販センターの脇に、あまり広くない道があって、これが「陶の小径」です。 車もほとんど通らず、なかなか雰囲気があります。 この小径沿いには、個性的な10軒ほどの窯元がポツリポツリと見られます。 お店の人と、最近の笠間焼について・・・・など、やきもの談義をしながら品定めしていると、アッという間に楽しい時間が過ぎていきます。 笠間駅に戻るか、それとも友部駅へ出るかルートを検討し、そろそろ東京に戻ることにしましょう。 とても一日では回りきれないやきものの故郷・笠間。 時間に余裕をもって、再び散策してみたいと思いました。 ■ |
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