六古窯のひとつにも数えられ、歴史深い陶産地でありながら、
現代的な仕事に取り組む窯元や陶芸家も多い、滋賀県・信楽を
やきもの散歩しましょう。




狸と雑器の街歩き

 滋賀県・信楽町一帯は、日本六古窯のひとつとして知られ、天平時代を起源とし、13世紀後半から現在まで、長いやきものの歴史を持つ陶産地です。
 本来の信楽焼のイメージはといえば、ザックリとした土肌に明るい緋色が出た壺などの焼締め陶でしょう。 そして信楽の名をより広く世に行き渡らせる大役を果たしたのが、「狸」です。
 今回の旅は、それらをキーポイントに置きながら、のんびりと信楽の街をやきもの散歩してみましょう。



全国デビューの契機は?

 滋賀県・信楽町へは、JR草津駅からなら、貴生川を経由して1時間ほど。 終点の信楽駅に着くと、すでにあちこちに陶製の狸が目につき、やきものの街にやってきたことを実感します。
 人の数よりも多いといわれる信楽焼のこの 「狸」。 一気に全国的に注目されて人気者になったのは、昭和26(1951)年。 昭和天皇が信楽を訪問された際、沿道に並んだ狸たちを見て、歌に詠まれました。 そのことが一斉にマスコミに取り上げられ、信楽狸が大流行するきっかけとなったそうです。
 この陶製の狸に象徴されるように、現代の信楽では、古信楽のような焼締めや茶陶ばかりでなく、施釉の器、置物、あるいは大物陶器やタイルなど、ないものがないほど作られています。
 さて、そんなやきものの街・信楽を体感するには、「窯元散策路」を歩いてみるのがいいでしょう。 道路に埋め込まれたシンボルタイルに沿って歩けば、道に迷うこともありません。 駅を出発して国道307号を渡ったら、いよいよ散策路のはじまりです。 するとじきに「信楽伝統産業会館」が見えてきます。 ここでは室町、桃山時代の古信楽の名品の数々、江戸時代から明治・大正に至る代表作が展示されています。 伝統の力をじっくりと鑑賞しておきましょう。


◆ 信楽伝統産業会館
滋賀県甲賀市信楽町長野 1142
TEL:0748-82-2345
信楽を訪れたら、まず最初にここをチェックしておきましょう。 信楽焼の歴史や伝統的な作品の展示、また様々な参考品や関連資料などをじっくりと鑑賞することができるのです。 とにかく、信楽焼全体をざっくりと知ることができます。 またギャラリーでは常設展示と、テーマに沿った特別展示とがあり、信楽の伝統と現代作家の動向を総括的に見て学ぶことができますよ。 しかも入館料は無料。 ぜひ立ち寄りたい、お勧めの施設です。
   
入口近くには、災難を避け、金運に恵まれ、徳がもて・・・る、縁起物の狸がお出迎えです。

江戸時代に作られた信楽の壺や甕。 均整のとれたいいフォルムをしています。
ここには信楽の六古窯としての誇りが展示されています。  
桃山の水指、室町の壺など。

室町から江戸時代の作が展示。

明治・大正の製品。 現代の伝統工芸士らの作品コーナー。


地元で活躍する伝統工芸士や作家らの作品展示も充実しています。
  
左●高橋春斎「掻落し水指」  右●信楽らしい緋色が美しい「火の壺」(高橋春斎)

英山窯による茶入、香合、茶碗など茶陶の力作。




現代を感じる陶の街

 散策路の周辺で、一際たくさんの狸が並んでいる窯元は 「ヤマ庄陶器」 と 「宗陶苑」 です。 巨大なものからミニチュアまで、ギッシリ並んでいます。 流行や世相にも、狸は敏感です。 サッカー狸や風水狸、ケータイ狸・・・・といろいろあって見飽きません。 またこれらの窯元には、ガーデンファニチャーやランプシェードなどの照明器具、 火鉢、植木鉢、傘立てにタイルなど、実に多種多様なやきものが並んでいて、信楽のやきものパワーを知ることができます。


◆ ヤマ庄陶器 
滋賀県甲賀市信楽町長野 560-1
TEL:0748-82-0045
店先には所狭しと置かれた信楽の象徴・狸、狸、狸・・・・の置物がズラリ。 とはいえ、狸ばかりを扱うショップではありませんから。 この店の本業は、全国の陶器店にやきものを供給する卸問屋であるために、驚くほど多彩な品揃えがしてあります。 本社ショールームでは、もちろん一般の買い物客もショッピングを楽しむことができます。
  
大から極小まで、狸の表情はそれぞれ違いますから、よく 見てからお土産にしましょうね。



◆ 宗陶苑 
滋賀県甲賀市信楽町長野 1423-13
TEL:0748-82-0316
ド迫力の、長さ30メートルにも及ぶ大型の登窯を所有し、今も2ヵ月に1度のペースで焼成しています。 灰被りの花入や茶器、壺などが、この窯から焼き出されています。 製品はおよそ日常使いの器ならなんでも揃っていますが、ほかにも陶人形や照明具から、ガーデンファニチャーなどのエクステリアまで、ないものがないほどの幅広い品揃えが自慢の窯元です。
  
左●信楽らしい緋色が出たガーデンファニチャー。  右●広大な敷地内にある巨大な登窯や穴窯を使って制作しています。




 普段使いにいい器を探すのなら、「蓮月」 と 「大小屋」 がお勧めです。 「蓮月」 には、焼締めや自然釉の信楽らしい食器から、粉引、染付、赤絵などもあります。 信楽の素朴な土味だけにこだわらず、料理が映え、使い勝手のよさを追求した器が並んでいます。 また 「大小屋」 には、モノトーンのスタイリッシュな器や、粉引、灰釉、刷毛目、織部の鉢やカップ、皿、それに土鍋や飯鍋まで見つかります。 ここには陶芸教室も併設されていますから、本場で土ひねりするのも、いつもとは気分が違っていいかもしれませんね。


◆ 蓮月窯 
滋賀県甲賀市信楽町長野 720
TEL:0748-82-3566
ここは信楽にあって、こだわりの窯元と感じられます。 店名の由来は、幕末の女流歌人であり作陶にも才能を発揮したといわれる 「蓮月尼」 からとか。 それだけに女性陶工も多く活躍する窯元で、とくに女性の感性で、現代の食生活に馴染んだ器作りに心血を注いでいて、評判も上々のようです。 ディスプレーもなかなかお洒落で、人気ある窯元です。


こちらの店舗では、「器の店」と銘打って主に日用の雑器などが展示販売。 実際に、今晩からでも使ってみたくなる器もたくさんあります。
  


こちらは「ギャラリー」部門。 信楽の有望作家らの作品もあり、じっくり鑑賞できます。
 



◆ 信楽陶舗 大小屋 
滋賀県甲賀市信楽町勅旨 2349
TEL:0748-83-2220
信楽の街中でもひと際大きな店舗で、タイル貼りの外観がよく目につきます。 店内にはショップ、ギャラリー、作陶教室などが整えられていて、ゆっくりと時間をかけて回りたくなります。 見学に疲れたら・・・・・、館内にはガーデンカフェ ・ レストランがあってお茶や軽食をすることだってできます。 お洒落な複合やきものショップです。


産地を旅していると、日頃目にすることのない何気ない風景との出会いがあります・・・・。


 散策を終えたら 「陶芸の森」 にも、ぜひ寄ってみましょう。 取材当日は、「信楽産業展示館」 で 「朝日陶芸展」 を開催中でした。 現代の最先端の、野心的な作品を見ることができました。 また 「陶芸館」 では特別展や常設で、内外の優れた現代陶芸作品を見ることができます。
 古信楽の誇りを保ちつつ、しかし現代を受容し、発展・拡散し続ける信楽。 まさに、伝統と現代がクロスオーバーする陶の街が信楽なのです。


◆ 滋賀県立陶芸の森 陶芸館 
滋賀県甲賀市信楽町勅旨 2188-7
     陶都・信楽のランドマークにもなっている
     中核施設「陶芸の森」。
TEL:0748-83-0909
やきものを統一テーマとした創造・研修・展示の機能を持つ各施設が、40ヘクタールという広大な公園内に点在しています。 「陶芸の森」 とはそれらの総称です。 なかでもここ 「陶芸館」 ではやきもの専門の展覧会が企画・開催され、これまでも内外の陶芸・美術ファンから注目を浴びる好企画展が、数多く開催されてきました。 それに良質な陶芸作品の収集にも力を入れていますから、館蔵品展なども見逃せません。
 
特別企画では内外問わず様々な作家たちの優れた作品が見られます。
現在は「やきもの動物パラダイス」展が開催中(2009年4月12日まで)。
    

◆ 滋賀県立陶芸の森 信楽産業展示館 

滋賀県甲賀市信楽町勅旨 2188-7
TEL:0748-83-0909
「陶芸の森」の施設のひとつで、陶業地・信楽の生み出す、主に産業品としてのやきものが一堂に紹介・展示されています。 テーブルウェアはもちろん、花器、ガーデンファニチャー、建築用陶器など、幅広い展示品がここでは見られます。 また様々なイベントや展示発表などの会場としても利用されていて、取材当日は「朝日陶芸展」の会場になっていました。
通年開催される「信楽焼産業総合展」を見ると信楽のパワーが伝わってきます。。


取材:2008年


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