市之倉さかずき美術館 ギャラリー「宙」にて「美濃のアール・デコ  精炻器展 Vol.5」が開催されました。

精炻器というやきものを皆さんはご存知でしょうか? 
昭和初期に美濃地方で採れる未利用の土を活用し考案されたのが「精炻器(せいせっき)」です。密度が高く光沢あるベージュ色の器肌に焼き上がるのが炻器土の特性ですが、当時は純白の器肌を持つ磁器が最高級品として君臨し、色付の土は敬遠されがちでしたので、器肌を白色に仕上げるため、化粧泥を掛け仕上げました。これが精炻器の大きな特徴となります。さらに加飾、彩色、絵付けと装飾を重ねることで上質で品のあるやきものが完成しました。こうして精炻器は美濃の主要製品の一つとなり、美しい装飾が高く評価されアール・デコと呼ばれるまでになります。しかし、化粧泥が生乾きのうちに素早く加飾しなければならず、熟練の技が不可欠で、大量生産に不向きであったため高度経済成長期の大量生産の波に乗ることができず衰退してしまいました。

それから30年後、時代の変化とともに「やきもの」に対する私たちの考え方も大きく変化しました。地産地消という考え方や、多少手間がかかってもより良いものを作りたいという現代の風潮の中で、精炻器の復活はとても自然なことであったといえるでしょう。

本展覧会は、復活を遂げた精炻器の現在に至るまでの研究成果の発表と精炻器の普及を目的として開かれ、今回で5回目を迎えます。精炻器を初めて知った方も、懐かしいと感じられる方にも、改めて精炻器の魅力を知る機会となりますよう、一部ですがご紹介したいと思います。








JR多治見駅からバスで10分、市之倉の自然豊かで素朴な街並みの中に「市之倉さかづき美術館」はあります。バス停を降りるとすぐに小さな川に架かる市之倉橋があり、その脇には多くの窯元が軒を連ねる「市之倉ストリ ート」があります。

バス停からは徒歩5分程で美術館に到着です。美術館の入口へと向かう途中、開放的に開け放たれた扉から精炻器展の会場がわずかに覗いて見え、期待が高まります。

展示会場は、ミュージアムショップ奥に広がるギャラリー「宙」。6人の作家による個性豊かな精炻器が展示されていました。市之倉さかづき美術館・学芸員の今川さんに案内して頂きました。




■作家:安達 あかね Adachi Akane
「あめいろカップ」
ぷっくりと盛り上がったオタマジャクシのようなデザインのボウルは安達あかねさんの「DEW」シリーズのボール。同作家の「あめいろカップ」は今川さんお薦め。「伝統的スタイルを守りながら自分流にアレンジされた作品に魅力を感じる」と語る今川さん。
丸みを帯びた形に飴釉の優しい色合が馴染み、食卓を豊かに飾ってくれそうです。

■作家:伊藤 ますみ Ito Masumi
土色に似合う素朴で民芸調の温かさが伝わる絵付けです。兎紋の入った小鉢(写真上)は重ねてもかわいい大中小セットで手に入れたい一品です。

■作家:垣沼 千亜季 Kakinuma Chiaki
濃い色での縁どりや、余白を意識した絵付け、幾何学的デザインなど、どこかピリリと締まった印象を与える器は垣沼 千亜季さんの作品。
様々な色で縁取られた豆鉢(写真右)はやきものの中ではお目にかかることの少ないピンク色の縁がかわいらしい。伝統的技法を守りながらも、幅広い層にうったえるような、新しいデザインを取り入れる柔軟な器作りの姿勢を感じました。

■作家:曽根 洋司  Sone Yoji

曽根洋司さんの「T-kanna」シリーズ(写真上・左)は完全に白色で覆われ一見磁器のようでもありますが、土ならではの風合いが手にしっくりと馴染む精炻器ならではの作品。
曽根さんの仕事で興味深いのは、「T-kanna」シリーズのような作品から麦を描いたシリーズ(写真下)までデザインの幅が広いこと。麦のモチーフや削りの技法は当時の代表的精炻器のスタイルなのだとか。化粧泥が生乾きのうちに削り取っているのがよく分かります。伝統的精炻器から現代的精炻器への歩みが見られる作品内容です。

■作家:剱 雅明 Tsurugi Masaaki
本展覧会では岡本牧さん提案の精炻器を用いたテーブルコーディネートも紹介していますが、夏のテーブルコーディネートにぴったりなのが剱雅明さんの作品です。焼き上がりの表面がつるりとしているせいか、涼しげな印象を与える炻器土に白化粧、そしてグリーンやブルーの色遣いは日本一暑い多治見の猛暑も和らげてくれるような涼やかさを感じます。

■作家:和田 一人 Wada Hitori
大胆な絵付けが特徴の器は和田一人さんの作品。器の形が非常にシンプルなため、自由闊達に伸びる枝や大きな実がいっそう生き生きと感じられます。
和田さんは絵付け技術で美濃を代表する作家であり、講師として精炻器の装飾技術を向上させるため迎えられました。


6人の作家により現代に甦った精炻器。若手作家を中心に一度は忘れられてしまった芸術を取り戻そうとする動きは、美濃の陶芸が再び盛り上がろうとしているような勢いを感じさせます。研究を重ねて広く普及させる、この流れの中で本展覧会が重要な懸け橋となっているのだと実感しました。

たくさんの精炻器を見てきましたが、やはり、やきものは使ってみなくてはわからない! 小ぶりのものなら比較的手に入れやすいお値段ですので、実際に使ってより深く精炻器を味わってみてください。(KANA)





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