八坂神社では、無病息災を願って手を合わせました。 「ハ〜イ、皆さんこっちですヨ!」。
新京極界隈を練り歩くツアーご一行。



世界一の大皿に触れる 

 今日も、清水寺へと続く坂道は、人並みが絶えることなく、ひっきりなしに往き交っていました。 坂の左右に隙間なく建ち並ぶ土産物屋、それにぽつぽつとある陶器店が、少し気にはなるのですが、このツアーの案内役は「たち吉」さんなのですから、後でおススメの店でじっくりと品定めしたいと思います。

 とりあえず、七味を専門に扱う老舗で買い物をし、私たち一行は、今度は茶わん坂に降りて、再び清水寺方面へと緩やかな坂を上ります。 陶器商の店先やウィンドーを覗きながらそぞろ歩きするとすぐ、「近藤悠三記念館」が見えてきました。
 ここは染付の人間国宝に認定され、日本の陶芸界に大きな足跡を残した陶芸家・近藤悠三の生家であり、アトリエでもあったところです。 現在は記念館として公開され、代表的な作品や道具、それに貴重な遺品の数々を観覧することができます。
 館内は照明がほどよく落とされていて、落ち着いて作品鑑賞できました。 スポットライトに浮かび上がる白い磁器肌と、染付の碧青のコントラストが、美しいことこの上ありません。 ツアーに参加している皆さんからも、思わずため息が洩れます。
 悠三の次男で陶芸家の近藤濶氏が、分かりやすく丁寧に作品解説をしてくれました。 なかでも白眉は、直径が1メートルを超え、世界一大きな磁器の皿といわれる「梅染付大皿」(径126.6センチ)です。 幸いにも私たちは、特別に展示ケースの中に入って、作品を間近に見ることができました。
 70歳を過ぎていた制作当時の作者の、雄壮な染付の極まった技、また、旺盛な創作欲がそのまま伝わってくるようでした。
 

 
左●近藤悠三の代表作「梅染付壺」
右●中国で生まれ、世界に広がっていった染付。でもそれらのなかに、近藤作品との類型を見つけるのは、きっと困難だろう…。そう思わせるほどに、ここに展示されている染付磁器は、絵付も器形も表現として唯一無二のものに感じられました。(ともに「近藤悠三記念館」にて)



左●悠三をして「夢の大皿」といわしめた直径120センチ以上ある磁器の大皿は見事。特別に記念撮影もできました。
右上●「石榴染付金彩壺」。いつでも写生ができるようにと、自宅の庭には石榴が植えられていたそうです。
右中●染付を描くのに、実際に使っていた筆。意外に細くてビックリ。
右下●かつて悠三が使った轆轤場。この質素な仕事場から、様々な雄壮な作品群が生まれ出たかと思うと、とても不思議です。



近藤悠三記念館
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雄渾な染付で描く命の力
 近藤悠三(1902〜1985)は、京都に生まれ育った陶芸家です。富本憲吉の助手などを務めてから独立。早くから呉須や鉄呉須、釉裏紅に取り組み、頭角を現し注目されました。

 絵付の主なモチーフには梅、葡萄、石榴、薊、松などが好んで選ばれています。その手法は徹底的な観察と写生を繰り返すことにより、生命感を見事に活写し、さらに独創的な陶芸的文様へと昇華していきました。

 それらの業績が高く評価され、1977年には、染付の技法により重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています。


住所=京都市東山区清水新道 1-287
電話=075-561-2996



上●館内を案内して頂いた近藤濶氏。
下●京町家風の落ち着いた外観同様、静かな佇まいの展示室ではじっくりと作品鑑賞できます。

 

取材:2004年


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